【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第16回】

やっぱりAKB48は20世紀の延長だった!? 「80年代風アイドル」渡り廊下走り隊 

rouka.jpg『廊下は走るな!(初回盤A)』ポニーキャニオン

 10月16日のニッポン放送「AKB48のオールナイトニッポン」の冒頭で、秋元才加がスキャンダル報道について涙ながらの謝罪をしたのは、まるで学生運動時代の新左翼による「自己批判」のようだった。仮に秋元才加が広井王子と付き合っていたとしても、それは大人のふたりのことであって、別にまったく悪いことではない。しかし、あえて「両想い禁止」を掲げ、秋元才加に相手の肩書と名前まで言わせ、チームKのキャプテンを辞任させることによって、秋元康はAKB48をアイドルたらしめているのではないか、と考えてしまうほどだった。

 「アイドル」という幻想がどのようにして形成されるのかを秋元康は熟知している。そして秋元才加は「自己批判」をし、「総括」を成し遂げた。彼女の前では、スキャンダル報道から逃げるアイドルは「敗北主義」であるかのようだ。AKB48にはなぜか学生運動を連想してしまうようなエネルギーがある。そして、結果的に放送を聞いたものを秋元才加のファンにしてしまうドラマを感じた。

 そんなAKB48の5人による渡り廊下走り隊のデビュー・アルバム『廊下は走るな!』だが……シリアスな雰囲気が微塵もない! 完全に異世界!

 2010年のオリコンシングル週間ランキングの1位獲得曲で最も異常な作品に感じられたのは、渡り廊下走り隊の「アッカンベー橋」だった。「アッカンベー橋」はフォークダンス風のサウンドにして、実際にビデオ・クリップではフォークダンスを踊っている。これが1位、というのはちょっとした衝撃だった。

 そんなわけで、デビュー・アルバムは相当な怪作が届けられるのではないかと期待していたのだが……これはAKB48関連の諸作品の中でもずいぶんおニャン子クラブを連想させる80年代的な作品だ。以前、秋元康にインタビューする際、話題のきっかけ作りにおニャン子クラブのアナログ盤でも持っていこうと、棚からLPを出し入れしたのだが(実際に持参したのはとんねるずのセカンド・アルバム『仏滅育ち』だった)、あのときの感覚を思い出させるのだ。

 渡り廊下走り隊は、おニャン子クラブのうしろ髪ひかれ隊と同じく秋元康プロデュースで、プロダクション尾木とポニーキャニオンに所属している。そんな彼女たちの『廊下は走るな!』は、大雑把に言えば「楽曲や編曲は80年代風だがサウンド・プロダクションは2010年」というアルバムなのだ。渡辺麻友のソロ曲が収録されているのも、アイドルのアルバム然としている。アルバム週間ランキングで4位を記録した。

 冒頭の「猫だまし」が相撲関連の単語を多用している、という時点で実際に猫騙しを食らったような気分になる。渡り廊下走り隊が「どすこい、どすこい!」とか言ってるんだぜ……。とはいえ、重要なのはそういうギミックではない。「完璧ぐ~のね」や「ドジ」などで感じられる、80年代アイドル歌謡をさらに洗練したかのようなサウンドこそポイントだ。フィル・スペクターのスペクター・サウンドも少しだけ頭をかすめた。「青い未来」や「骨折ロマンス」のコード進行も80年代的。「アッカンベー橋」はむしろ異端で、複数のアレンジャーが手掛けているのに、ここまでアルバムのトータルなイメージが貫徹されているというのは、現場のディレクターあたりが相当優秀なのだろう。

 惜しむらくは、ギター、ピアノ、コーラス以外はプログラミングの楽曲が多いこと。これでリズム隊とブラス・セクションが生だったらすごいのに……。アイドリング!!!のライヴ映像で生バンドが演奏を担当していると、ついグッときてしまうタイプだけに、なおさらそう感じてしまうのだ。そういう意味で、ストリングスも含めて生バンドが演奏している「ギュッ」のサウンドは実にみずみずしい。感心するほどキャッチーな曲ばかりだし、この編成でアルバムを丸ごと1枚制作できたら、うしろ髪ひかれ隊というより、うしろゆびさされ組の「うしろゆびさされ組」ぐらいのグルーヴが出せたかもしれないのに! 最近のアイドルポップスはプログラミング主体でテクノポップ寄りの音が多いだけに、なおさらそう感じた。

 初回盤BのDVDに収録されているラジオ番組仕立ての「ナハナハ・マンデー」は、せんだみつおがフル稼働で、挿入歌の昭和歌謡感も半端ない。AKB48も渡り廊下走り隊もまだ20世紀にいるかのようだし、「廊下は走るな!」は20世紀のいいところを21世紀に持ってきたようなアルバムだ。サウンドももっと昔に戻っていいよ!

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