日本最大賭博場が摘発されたウラ事情

違法賭博、売春、ドラッグが”黙認”されてきた街・西成

jvuokko_399427543.jpg※イメージ画像 photo by
Jukka Vuokko
from flickr

 今月6日、大阪市西成区の通称「ドーム」と呼ばれる日本最大の闇賭博場「福助」が摘発された。内部には100台以上のテレビモニターが設置されており、競輪、競艇など公営ギャンブルのノミ行為をはじめ、野球賭博なども行われ、1カ月に約1億8,000万円を売り上げていた。西成には生活保護を受給している労働者が多く、その保護費を大きな資金源にしていたと見られ、保護費を受け取った足で「ドーム」へ向かう者も多かったという。

 驚くべきことに、この「ドーム」は所轄の西成警察署から歩いて数分の場所に位置している。この一帯の住民で「ドーム」の存在を知らない者はおらず、警察も当然ながら闇賭博場の存在を知っていたはずだったが、今までは”お目こぼし”をもらっている状態だった。筆者も西成を何度か訪れたことがあるが、警察署から歩いてすぐのところに、電飾付きの看板を掲げた違法ゲーム賭博店があって驚愕したことがある。事情通の話などを総合すると、今回の摘発は、賭博場を運営していた山口組系暴力団への牽制が目的と見られ、政治的な判断も含め、過去に警察官が賄賂を貰っていた事件が発覚するなど”癒着”とまで言われた警察と地元暴力団の関係に変化があったようだ。

 それにしても、警察署の目と鼻の先で巨大賭博場を開帳できるというのは、どういうことだったのか。この異常さの背景には、西成という土地の特殊な事情が関係している。

 西成区は基本的に閑静な住宅街が多い土地だが、事件の舞台となった「あいりん地区」(通称・釜ヶ崎)だけは趣が全く異なる。あいりん地区は、日本最大のドヤ(簡易宿泊所)街として知られ、全国から日雇い労働者やホームレスが集まる土地として有名だ。英国人女性殺害事件で逃亡していた市橋達也被告も一時期、西成で日雇い労働に従事していたが、過去を知られたくないワケありの人間が集まる”流れ者の終着駅”という面も強い。

 当然ながら治安は悪く、1961年から2008年まで24回にわたって暴動が起きており、労働者に加えて左翼活動家や野次馬の未成年などが集結し、警察署が襲撃されたり路上で車が燃やされるなど、日本とは思えない光景が繰り広げられたこともあった。日本で暴動が起きる唯一の街と言われ、西成警察署は厳重なフェンスに囲まれて要塞化されているほどだ。コインロッカーなどを利用した違法薬物の取り引きも盛んに行われており、売人から覚せい剤を購入し、その足ですぐにドヤに入って使用するという者も少なくない。西成警察署の少し南にある通称「三角公園」では、夜になると労働者たちが集まり、チンチロリンなど青空賭博にいそしむ姿を見ることができる。

 さらに、あいりん地区から少し離れた場所には、戦後の遊郭の雰囲気が残る”ちょんの間”のメッカ「飛田新地」がある。どの店も表向きは料亭だが、もちろん本当に料亭だと思って入る客はおらず、中で本番行為が繰り広げられる。20分1万5,000円前後と値段設定は高めだが、どの店も芸能人クラスの美女をそろえているため、独特の雰囲気と女性のレベルの高さに魅了され、足しげく通う客も多い。こちらも治安が悪いのではないかと心配したくなるが、一帯を取り仕切っている暴力団が常に目を光らせており、一般人の揉め事やトラブルは皆無、異常なほど秩序が保たれている。その代わり、好奇心で通りすがりに店や女性の写真を撮ったりすれば、命の保証はない。

 賭博場にしても売春街にしても、本来ならば完全な違法行為だが、今まで警察は取り締まりをしてこなかった。癒着も原因の一つだが、何より取り締まりを強化すれば、あいりん地区の崩壊や犯罪の拡散を招きかねず、それに対応できない限りは摘発すべきではないという判断だったからだ。だが、今回の「ドーム」摘発をはじめ、飛田新地でも今年1月に売春防止法違反による摘発が”今さら”行われた。今後、摘発が相次げば西成という地域の特殊性が崩壊する可能性もあるが、西成は行き場のない人間にとっての”救いの場”でもあり、世の中の必要悪が集合した土地とも言える。

 犯罪行為を取り締まるのは当然という姿勢は、異論をはさむ余地がないほどの正論であるが、それだけでは片付かない複雑な事情を抱えているのが、西成という地域であると言えるだろう。
(文=ローリングクレイドル/Yellow Tear Drops

現代ホームレス事情―大阪西成・あいりん地区に暮らす人々を見つめて

 
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