民主党政権の政策の中でも、賛否両論の激しいものが、昨年来の「事業仕分け」。無駄遣いが指摘される公共事業などへの予算の削減を柱とした一連の政策は、「聖域に踏み込んだ」との一定の支持を集めている一方で、研究開発にあたる現場からは不満の声も漏れている。中でも、世界一の計算速度を目指すスーパーコンピュータ開発への予算の縮小を意図して蓮舫議員が言い放った「2位ではだめなんですか」というひと言が、批判の的にさらされた。
そんな民主党政権の文部科学部会が、「科学宝くじ」の発行と、その予算による「平賀源内研究所(仮称)」の設立を提言した。平賀源内といえば、独自の手法で「エレキテル」や「燃えない布」などを発明した江戸時代の大発明家として知られているが、源内にならい、奇想天外な発明に挑戦する科学者を後押しする機関にする計画だという。
研究チームの主査を務める衆院議員の首藤信彦氏によると、
「タイムマシン研究でもいい。欧米に追いつけ追い越せの理工学以外から、新たな分野が開かれる可能性がある」とのこと。
要は、これまで異端視されてきた「得体の知れない研究」に予算をつけるということで、これに対しては、「実現不可能な研究に対して予算をつけるのは、その過程も不透明なものとなり、事実上の『賄賂ルート』として利用される可能性もある」との批判もある。
一方で、一聞してアホらしく思えるタイムマシン研究も、一定の成果につながるのではと考えることもできる。
山口大学は、学内に「時間学研究所」を設置。人文科学、社会科学、自然科学の三つの側面から「時間」というものを統合的に研究している同所のような機関も存在しており、タイムマシンの開発には至らなかったとしても、これまでとは違った角度からの研究が、何らかの新天地を開拓できる可能性がないわけではないだろう。
そこで、菅政権がこの「平賀源内研究所」で研究する「トンデモ研究」は、タイムマシンのほかに何が考えられるのか、リストアップしてみた。
<宇宙人探査>
小惑星探査機「はやぶさ」の帰還によって、一躍その名を世界に知らしめた日本の宇宙事業。肝心の既存型宇宙事業は、事業仕分けによって縮小の憂き目に遭ったが、「宇宙人を探す」という、素人にも分かりやすい目標ならば、その実効性よりもPR力を優先する民主党政権の支持を受けることが可能かもしれない。
夫人が「宇宙人に連れられて金星に行った」との発言を残している鳩山前総理の頃だったら、「国を挙げての宇宙人探し」というのも、いっそうの現実味を帯びていただろう。ただし、宇宙人探査に必要な技術は既存の宇宙開発のものであり、なおかつ、年間10億円程度の予算でできるものでは到底ない。「10億円かけて宇宙語の解読方法を研究しました」などとお茶を濁すのが関の山、とも予想される。
<テレパシー研究>
過去に世界で研究された超能力の中でも、大真面目に研究が続いた数少ないもののひとつが、念力によって意思疎通を可能にするテレパシー。軍事・諜報の面での利用を目論んだアメリカやソビエトが巨額の予算を投じて研究を進めたものの、両国は「将来性のない研究だ」として、研究を打ち切っている。だが、SF作品の中には頻繁に登場する馴染み深い超能力だけに、菅総理をはじめとする政権中枢の面々のピュアな心をくすぐっていてもおかしくない。
<ホメオパシー>
一時期は欧米で近代医学の代替治療として注目されていた時期もあったが、現在では「擬似医学」であるとされているホメオパシー。沢尻エリカやサンプラザ中野など、日本の芸能界でも「ちょっとアレ」な面々に支持者が多いことでも知られている。
そんなホメオパシーも、平賀源内研究所から資金を拠出される要件を満たしているといえるだろう。ただ最近では、ホメオパシー以外にも、「水には意識がある」などと訴える疑似科学的な治療法が登場してきており、それらを謳い文句に、心身ともに疲弊しきった病人などに多額の金銭を支払わせる業者の存在も確認しており、これには警戒が必要なことは間違いない。
ところで、「車輪の再発明」という言葉がある。既存の型を打ち破って、別角度からの研究を始めた結果、結局出来上がったのは過去にもありふれたものだった、という例えだ。何が飛び出すかまったくわからない平賀源内研究所構想だが、事業仕分けによって既存の科学研究の芽を潰しきったあとに打ち上げるこのチープながらも壮大な計画が、ただの無駄遣いに終わらないことを祈りたい。国を挙げて獲得すべきは、ふざけた研究にマジメに取り組むことによってもらえる「イグ・ノーベル賞」ではなく、本家ノーベル賞のはずだ。
『タイムマシン開発競争に挑んだ物理学者たち』著:ジェニー・ランドルズ
創造力溢れる物理学者たち!