KARAが8月23日付のオリコン週間シングルランキングで5位を記録した。K-POPシーン、つまり韓国からやってきた彼女たちのデビュー・シングル「ミスター」が、いきなりこの数字だ。しかもK-POPの少女時代も同じ8月11日にDVD「少女時代到来」をリリースしており、これからさらに韓国のアイドルの日本デビューが続くことだろう。国内だけ見て「アイドル戦国時代」などと言っている間に、黒船襲来というか元寇のような状態になってしまったのだ。
しかし、「アイドル戦国時代」にまだその名を広くは知られていない伏兵が日本にはいる。日本と韓国の間の話題が多い時期に、なんと中国での活動をしようとしていたChu!☆Lipsだ。彼女たちこそ地下アイドル、あるいはライヴアイドルで最強の存在。今回紹介するDVD「ワケあって結成日から1ヶ月遅れで6周年突入! ワンマンライブだよ全員集合!!」は、Chu!☆Lipsが日本で活動休止する前の4月29日のワンマンライヴを完全収録したものだ。が、結局は中国側の問題で活動できず、Chu!☆Lipsは日本での活動を再開しているのだが。本意ではないとしても、日本にChu!☆Lipsがいるのは心強い。
私が初めてChu!☆Lipsを見たのは2007年の初頭、toutouを目当てに行った「アイドルステーション」だったと思う。「チュッパー」と呼ばれるChu!☆Lipsのヲタが、ステージ上のChu!☆Lipsとほぼ同じ高さにまでリフトされて持ち上がっている光景が物理的に理解できず、何が起きているのかと激しい衝撃を受けたことを記憶している。
05年に結成されたChu!☆Lipsは、メンバーの入れ替わりもあり、現在はなっちん、りお、栗田の3人ユニット。そのChu!☆Lipsとチュッパーによる圧巻のライヴ映像を収録したのが「ワケあって結成日から1ヶ月遅れで6周年突入! ワンマンライブだよ全員集合!!」なのだ。
冒頭からして、最前のチュッパーがMIXを打つためにステージに背を向けている。これだけでも異様に映るかもしれないが、まだまだ序の口だ。ケチャは津波のようであり、同時に槍の大群がステージに刺さろうとしているかのようだ。そして、ここでも何度もチュッパーがステージと同じ高さにリフトされている。「夢はいつもここにある」で、一旦後方に下がったチュッパーが、横一列になってステージに向かって一気に走ってくるのも壮観だ。「ウルトラ☆メガトン☆大好き」では、ステージ上のChu!☆Lipsと、フロアの数十人のチュッパーが同時にトレイン状態で走り回る。そのすべてが気の利いた編集によって映像に記録されている。
しかしチュッパーが真に注目されるべきはそのクリエイティヴィティだ。まずそれを感じさせるのが「デートに誘ってくだチャイナ!」。一読して中華風の楽曲だと想像できるタイトルだが、いきなりヲタの手作りドラゴンがフロアから登場してくるのだ
また、オールディーズ風の「大好きよパパ」では、サビで「フゥー」というチュッパーの合いの手が入るのだが、それがドゥ・ワップ調で音楽的にもレベルが高い。初めてライヴで見たときに驚いたものだ、
そしてチュッパーの底力に震撼させられるのは「100万馬力のお年頃」だ。チュッパーが組む騎馬がフロアを駆けるのだ! そしてカメラに向かって走り寄る! この映像のヤバさは半端なものではない。
「とびっきり!恋の大ジャンプはK点越え!」は地下アイドルの一大アンセム。濃密なDVDの終盤を飾るこの名曲のカタルシスは強烈だ。
私の友人は「アイドルはヲタを含めてのアートフォーム」と語った。達見だ。そして、簡素なステージでありながらも充分な見応えがあるChu!☆Lipsのライヴは、ひとつの完成形なのだ。
地下アイドルなんて上下関係の世界だ、と吐き捨てる人もいる。しかしそれは間違いだ。下剋上の実力社会への負け犬の遠吠えに過ぎない。アイドルが売れるかどうかは運の問題が大きいので、簡単に判断できるものではないが、ヲタがアイドルの活動を支えられるかどうかは、現場を見ればすぐに分かる。このDVDを見れば、Chu!☆Lipsが5年間以上活動してこれた理由が理解できるのだ。チュッパーがChu!☆Lipsを支えてきたことを。
Chu!☆Lipsを正当に評価しない識者もヲタも信頼に値しない。そう言い切りたくなってしまうのがこのDVDだ。このDVDを紹介しないことは、この連載のアイデンティティに関わる問題であるとすら思われる。だからこそ、この「ワケあって結成日から1ヶ月遅れで6周年突入! ワンマンライブだよ全員集合!!」を本連載推薦の教材としたい。ライヴ会場での物販と公式サイトでの通信販売のみで入手できる完全限定生産盤だが、万障を排して手に入れてほしい。
アンコール、Chu!☆Lipsはヲタと同じハッピを着てステージに舞い戻る。彼女たちは荒れ狂う場を操る巫女のようだ。そして、2時間以上のライヴを通じて体感させる「祭り」のノリ。こんな現場はそうそうない。「アイドル戦国時代」が終わった後の日本の焼け野原には、Chu!☆Lipsとチュッパーが必要なのだ。
◆バックナンバー
【第1回】号泣アイドル降臨! ももいろクローバー「未来へススメ!」
【第2回】アイドルが”アイドル”から脱皮するとき amU『prism』
【第3回】タイ×ニッポン 文化衝突的逆輸入アイドル・Neko Jump
【第4回】黒木メイサ、歌手としての実力は? 女優の余芸を超える”ヤル気満々”新譜の出来
【第5回】全員かわいい!! 過剰なほど甘酸っぱく、幸福な輝きを放つ「9nine」のイマ
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【第7回】エロくないのにエロく聴こえる!! 聴けば聴くほど頭が悪くなる名曲誕生
【第8回】アイドルよ、海を渡れ 変容するSaori@destiny『WORLD WILD 2010』
【第9回】いよいよエイベックスが本気を出す!! 東京女子流という産業
【第10回】テクノポップが死んでも……Aira Mitsuki is not Dead!!
【第11回】アイドル戦争と一線を画す17歳美少女 そこにユートピアがあった
【第12回】おニャン子クラブの正当な後継者はAKB48ではない――「アイドル戦国時代」の行く末