著:スーザン・セリグソン/早川書房
「胸の悩み」というと、我々男子としては、バストのサイズが思うように大きくならないという悩みのほうが先に思い浮かぶ。しかし、どうやら「大きくなりすぎる」ことも深刻な問題となるようだ。
中国海南省の貧しい農民の家庭に生まれた16歳の女の子の両胸が、突然大きくなった。大きくなったといっても、GカップやHカップなどという生易しいものではなく、両胸の重さ合わせて8キログラム、なんと彼女の体重の20%にも達するものだった。
女の子の胸は2009年9月から大きくなり始め、1年も立たないうちに、あまりの重さで、仰向けに寝ることもできなくなってしまった。両親は女の子を病院に連れて行き診察を受けたが、原因は判明しなかったという。
彼女には都市部で勉学に励む姉と兄がいたが、彼らは妹を助けるために学校を退学して就職し、女の子の治療費のために2万元(約26万円)も費やしたものの、病状は今も全く改善されていない。女の子の家が貧しい農家であること、今年は干ばつがひどく農作物の出来もよくないことから、中国のメディアは「かわいそうな女の子を助けてくれる人を募集したい」と呼びかけている。
このいわゆる「巨乳症」、正式には「思春期乳腺肥大症」といって、思春期に乳房が過度に成長するという珍しい病気だ。かつてはヨーロッパや新大陸諸国での発症率の高い病気だったが、最近では、アジア女性の発症が増加傾向にあるという。
この病気の原因は女性ホルモンなどに対する過敏症で、肥大の程度は患者によって異なるが、最も大きくなった乳房は片方だけで30キログラムもあったという。こうした極端に肥大化した乳房はただジャマ、という不快感や動きづらさのほかにも、頭痛や腰痛、指の麻痺や刺痛、そしてひどい発疹などを引き起こすことが多く、治療する方法は今のところ乳房縮小手術しかない。
中国では巨乳症の女性が縮胸手術を受ける例が80年代頃から顕著になり、ひと医院あたり年間で20例を超えることも珍しくないという。中国紙のバックナンバーをあたれば、巨乳症患者の記事は数多く見つけることができる。
06年には、甘粛省天水市に住む11歳の少女のバストが突然大きくなり、92センチ、実際の画像で確認するとまるでスイカが二つ胸にくっついているかのように肥大化してしまった。当然、つるぺたの群れの中にスイカップが混じっているのだから同級生からはからかわれる。11歳という多感な年頃の彼女はこうした揶揄に耐えきれず、学校に行けなくなってしまったが、このことを知った中国の「愛思特美容整形国際機構」が、無料で施術することを申し入れた。手術は成功し経過も順調だという。
巨乳症の女性の中で最も有名なのは、「歴代最巨乳女性」として「世界大百科事典」にも登録されている、英国のティナ・スモール(1959~)。後にその「213cm・59cm・89cm」という、奇跡的なグラマラスボディを活かしヌードモデルとなるが、彼女が幼少期から抱えていたコンプレックスもまた、多大なものだったようである。
86年の自伝『Big girls don’t cry』には、その巨乳を男たちにからかわれて恥じらう少女時代にはじまり、プールで「あばずれ」扱いされ、思春期過ぎには自殺未遂や、カルト宗教への入信に至るまでの、数々の葛藤が記されている。
中国における巨乳症の多発について、都内で開業医を営む男性はこう話す。
「あくまでも仮説ですが、乳牛の乳量を高めるために与えられる薬の成分が、製品として出荷される牛乳の中に残留しているために、乳房の過発達が起こる、とも言われています。ただし中国の場合には、医療機関が充実したのが最近であり、それにより13億以上の国民の健康状態の統計を政府が把握できるようになったことも、巨乳症確認数の増大につながっていると思いますが」
昨年には、発がん性物質でかさ増しした乳製品が市場に出回り、社会問題ともなった中国。日本同様に、学校給食の一環として牛乳が供されているが、汚職の蔓延する中国だけに、学校の給食も利権漬けのようだ。そのような中国の社会事情が、コスト圧縮により粗製乱造される乳製品を通じて、うら若き中国の少女たちの健康を害していたとしたら、それは看過されてはならないことだ。
巨乳を眺めてニタニタできる「おっぱい星人」はいたって気楽なものだが、現実に、自らのバストサイズゆえに、大きな悩みを抱えている女性が存在する。身の回りにそういった女性がいたとしても、ひとりのおっぱい紳士として、節度ある対応を心がけるようにしたいものである。
い ろ ん な よ か ら ぬ こ と が で き そ う で す !!