伝説の「禁断のサーカス」が、2年ぶりに復活した。「巨大な見世物小屋」「大人のトラウマ」とも呼ばれる異端のイベント、その名もサディスティックサーカスだ。さあさあ! さあさあ!! よってらっしゃい、見てらっしゃい! 地獄の釜の底の底、ルチフェロ様にお仕え申した、サディスティックサーカスが渋谷の街に現出、現出ぅ~!
というわけで、7月17日Shibuya O-EASTで行われたサディスティックサーカスに、メスマーに催眠術をかけられた患者よろしく、ふわふわと引き寄せられてしまった。さて、会場に入ってみると意外というか、やはりというか若い観客が大勢を占めている。女の子も多い。中には趣向を凝らしたボンデージスタイルの子もちらほらと。うふふ、いいですな。
サーカスの口開けはなんとこまどり姉妹! 渋谷という街と若い観客に対する、なんというミスマッチ! 会場は昭和の世界にぐっと引き寄せられてしまった。お次も昭和的な浅草駒太夫。もうウワサでしか聞いたこともないような昭和の伝説ストリッパーですよ、みなさん!! お年はもう70 歳くらいのはず。あざやかな花魁衣装に身をつつみ、行灯を駆使してストリップを披露してくれる。流れる楽曲はやはり演歌だが、クライマックスではスージーQのアコースティックバージョン! なんてハイカラ!! 全裸になってさらす股間を、朱に塗られた行灯が巧妙に隠している。肉体は確かに衰えている。けれども、年季の入った動きがなまめかしい。そばで観ていた女の子も「エロ~い!」と感心することしきりだった。
昭和的な舞台は進み、新旧、スタイルの異なる活弁士対決の幕開けであります。ここにご登場はマンガ朗読でおなじみの東方力丸弁士。壇上スクリーンに手元のマンガを投影して行われます。お題はゲイ漫画家・田亀源五郎先生の「汗馬疾疾」。お後に控えるのは山田広野弁士。こちらは道で拾ったという、無声和物ブルーフィルム(ピンク映画にあらず)に声をあて、場内の爆笑を誘うのであります。笑い声の大きさは両弁士甲乙をつけがたく、会場一同ただただ大口を開け、笑い声をはき出すのみであります(う、なんだか文章も弁士調に……)。
そしてサーカスの舞台は混迷をますます極めていく。登場したのはルイス・フライシャー。深海の底のような青い照明の下、禿頭のその男は現れた。皮と骨とを組み合わせた、楽器のようなものを身にまとい、「こるこる」と喉音を会場いっぱいに響かせている。肉体から出る音をサンプリングし、ミックスさせ、異様な呪術空間をこの世に呼び起こす。フライシャーは額に針とフックを刺し、司祭であるかのごとく、祈りを捧げているように見える。やおら、白と黒の男が現れた。彼らの背中にはフックが取り付けられ、スプリングのようなもので繋がっている。そのスプリングを叩くことで、なんとも形容しがたいサウンドが会場に響き渡る。フライシャーは肉体からテクノロジーをもって音を抽出する。地獄から悪魔を召還する魔術師のように。
次に登場したのは緊縛師・蕾火と腹切り・早乙女宏美。彼女らは幕末の会津戦争で活躍した娘子隊をモチーフに妖艶な緊縛と腹切りの舞台を見せてくれた。舞台には悲鳴以外のセリフはない。黒い着物を着た蕾火は殺陣もすさまじく、さらに捕らえた姫君をするすると吊り上げ、枝や棒で打擲をくわえていく。姫君の苦鳴が響く会場は固唾をのみ、その様子を注視するばかりだ。桶に姫の顔をつける。喘ぎ声が漏れ、照明が水しぶきを照らし出す。そして蕾火は、姫君の首を掻き切り、ついには白い肌を赤い血が濡らす。蕾火は立ち去り、娘子隊の隊士がひとり現れる。惨殺された姫君を見て、後追いの切腹。さらに早乙女宏美が現れ、腹を切る。早乙女の腹切りは淫靡だ。その滑らかな下腹、苦痛にあえぎ、のけぞる白い喉。蕾火と早乙女宏美による残酷絵巻物にすすり泣く観客がいたのもむべなるかな。特に蕾火の緊縛は姫を吊すために使用したやぐらが額縁のようにも見え、一隻の無惨屏風絵のようでもあった。
最後に控えしは、ノルウェーからの地獄のサーカス団、ペイン・ソリューション。ヘッドマスター、マニアック、プリンセスの3名からなる彼らは見せ物小屋のまさに真骨頂。圧巻は、ヘッドマスターとマニアックの背中にフックをかけ、ハンモックを吊し(!)それにプリンセスが座るという荒技!! 会場のあちこちから悲鳴があがっている。
ラストは狂言回しのヘッドマスターによる、串刺しショー。上半身裸になったヘッドマスターが長い針を何本も手にし、それを刺す。首に、ほほに、脇腹に、腕に。刺す。刺す。刺す。さらにそれをぐりぐりと動かしていく。(気づかなかったけれど)額に刺してあった針を抜く。白塗りの顔に真っ赤な鮮血。これぞ、ペイン。
絵面は実におどろおどろしいのだが、ヘッドマスターの場の回し方がうまく、場内は爆笑と悲鳴の渦だ。なぜぼくたちは彼らが体を痛めつけるのを見て、笑っていられるのだろう。不可解だ。確かにユーモラスだ。けれどもグロテスクだ。血と痛みに華々しく彩られた人外のサーカスにぼくたちはひどく惹きつけられている。卒倒した者もいるというのに。
ぼくはその正体がわからないまま、会場を後にした。趣味の悪いおもちゃ箱をひっくり返したようなこのサーカスが頭から離れない。頭の中では丸尾末広の漫画よろしく、暗黒の舞台で登場人物が哄笑している。しかし大人のトラウマを呼び覚ますこのサーカスが、ぼ
くは大好きだ。
最後にひとこと。「シルク・ド・ソレイユなんてクソ食らえ」です。
(取材・撮影=珊瑚ky)
傑作ドキュメンタリー