<アイルランド発>
昨年11月、アイルランドのコーク大学で、同僚の女性講師が「意思に反して性的な記事を見せられた」と、いわゆる「セクハラ告発」をして、大学側から懲戒処分を受けた男性講師が、その処分を不当として取り消しを求める訴えを裁判所に起こした。さて、彼が本当に彼女に性的な記事を見せたならば処分は正当と言えるが、その記事が性的であるかないかがこの裁判の争点なのである。
アイルランドの新聞「Independent」紙によると、この男性は、コーク大学で行動科学の講師を務めるディラン・エバンス氏。彼は決してその女性講師に「プ○イボーイ」誌などを見せたわけではなく、ある特殊な種類の「コウモリ」が、オーラルセックスをする珍しい習性を持っている、という、云わば彼の行動科学講師としての研究範囲内に入るともいえる記事を女性講師に見せたのであった。
しかし、女性講師のほうはそれを「セクハラ」と受け取り、彼を告発したのである。その結果、エバンス氏は大学側から処分を受け、大学内での自身の行動や研究をも逐一監視される処分を受ける羽目に陥った。今回、彼が起こした裁判は自身の名誉回復のためと研究の自由を確保するためのものだそう。
しかし、女性講師側は「彼に性的な話題について話しかけられたのは、これが初めてではない」としている。ならば、なぜその時に告発したり、記録を残しておいたりしなかったのかとは思うが、ここでの問題は「コウモリの性行動」を「いやらしい」話題と捉えるか捉えないかだろう。確かに、いきなりあまり仲が良くもない同僚から「コウモリもオーラルセックスをするんだって」と言われ、そんな記事を見せられた日には、動物の性行動に興味のない人にはセクハラと捉えられる可能性がないとも言えないが……。セクハラの範囲を決めるというのはなかなか難しいものである。
(文=相馬 佳)
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