『デリヘルはなぜ儲かるのか』著:松本崇宏
男にとって”最悪”とも言える個人情報流出騒動が勃発した。四国の人妻専門デリヘルで、男性会員に登録させていた実名や携帯電話番号、顔写真までがネット上に流出してしまったのだ。当然、妻帯者の会員などもいるなかで、もしもそのデータが妻や恋人など知人の目に触れてしまったら……。そこで筆者は、被害者や渦中のデリヘルを直撃取材。すると、やはり”最悪”とも言える店側の無責任体質が見えてきたのだった。
この男にとって背筋が寒くなる”事件”を起こしたのは、徳島と香川で営業している某人妻専門デリヘル。この店は、地元で働く女性たちが知人の客に出会う「知人バレ」を避けるためとして、男性が会員となる際には、「逆顔見せ」と称して、事前に身分証のカラーコピーを提出させたり、顔写真をメールで送付することなどを求めていた。もちろん男性会員にもメリットはあり、登録をすればその分料金が割引になる。この店のHPでは、すでに「逆顔見せ」登録をしている男性が、香川県ではなんと約3,500人もいると豪語。女性の募集時にもそのことを強調し、安心して働けることをアピールしていた。そして当然、男性に対しては、
「(注)お客様から頂いたカラーコピー及び写メールは当店が厳重に管理致します。お客様の個人情報は外部に一切流出しませんので、ご安心ください」
と約束していた。だが今回、男性会員の携帯から送付された名前と携帯番号、そして顔写真の一部がネット上に流出してしまったのだ。詳細は不明だが、どうやら店側が男性から送られたデータをまとめて管理していたサイトが、誰でも閲覧可能となっていたようで、それを見つけた人間がコピーなどを取り、瞬く間にネットの海へと拡散してしまったのだった。
筆者は今回、数十人分のデータの流出を確認している。そして、そこには20代から6、70代とみられるさまざまな男性会員たちの、失礼ながら少々おマヌケな顔と名前、そして携帯番号が並んでいた。
なかには、「登録宜しくお願いします。自宅(単身赴任マンション)ですが大丈夫でしょうか?」などとメッセージを添えている40代とみられる男性などもいて、オヤジの悲哀を感じざるを得ないところもあった。
そこで何人かのそうした”被害者”に電話をしたが、筆者が接触した男性会員たちは、その段階では、いずれも自分の恥ずかしい情報が全世界に公開されていることに気付いておらず、突然の電話に「どういうことですか?」と戸惑いを隠さなかった。しばらくは自分がデリヘルに会員登録したことを認めなかったり、なかには「なんで、私のそんな情報が流れているのかまったく心当たりがない」などととぼけ続ける会員もいた。
とは言え、事情を飲み込んだ会員たちは「うーん、それは困りましたね」(40代自営業)などと困惑したり、「ひどい話ですねぇ」(30代会社員)と怒りを滲ませる人も。また、なかには筆者に対して、「こうした場合は、何かいい対応策はあるのでしょうか?」と、すがるようにたずねてくる会員もいた。
見知らぬ風俗店に自分の実名と顔写真を送ってしまうという行為について「危険とは思わなかったのか?」という問いに対しては、「いや、ネットだけだから大丈夫だろうと思いまして……」(40代既婚者)といった意味不明の返答をする男性もいるなど、やはり脇の甘さも感じられた。それだけに、「もし家族にバレたらまずいですよねぇ……」(同)と言う筆者の問いに、答える言葉はなかなか見つからなかった。
ただし、そうはいっても、こうした不幸な事態を引き起こした最大の責任者は、このデリヘルであるのは間違いない。今回、この店に取材を申し込むため昼間に顧客の受付番号に電話をした。すると最初は、番号非通知ではつなげないとアナウンスが流れて、いきなり電話が切れてしまった。そこで番号通知にしてかけ直したが、何度呼び出しても誰も出なかった。
ところが……なんと、それから5分ほど後、いきなり「先ほどは出られなくてすみません。(店名)ですが……」と店の男性店員がこちらに電話をかけてきたのだった。
いくら営業熱心とはいえ、風俗店が番号通知を要求して、いきなり顧客にコールバックをしてしまうとは……。基本的に、この店が無神経であることは、これでもよく分かる。さらに、こちらが顧客ではなく取材の電話であることを告げると、最初は愛想が良かった男性店員は、急に態度を一変させて「その件については、何もお答えできません」と言いだした。それでも、「情報が漏れた会員には、何か対応はしているのか?」と問うと、男性店員は「それはちゃんとしております」と言う。「こちらが取材した会員は何もしてもらっていないと話していた」ことを伝えると、男性店員は「そんなことはありません」と否定したうえで、「話があるなら弁護士を通してください」とだけ言って電話を切ってしまった。
どうやら、この店は、自分の情報漏れに気付いて店側に抗議などした会員にだけは、なんらかの対応をしているのかもしれない。だが、情報漏れに気付いていない会員は放置しているようなのだ。
ちなみに、風俗店の案内サイトなどからこの店のHPに飛ぶと、いきなり音楽が鳴り出す設定となっている。結局、この店は働く女性には優しいのかもしれないが、男性会員には無神経で無責任ということにならないだろうか。
そして、そんな店を選んでしまい、恥ずかしいデータを全世界公開されてしまった男性たちは、自分の不注意もあるとはいえ、なんとも不運としか言いようがなく、本人も外野も、今後の”知人バレ”がないことをただひたすらに願うしかないのだった。
(取材・文=原田 翔)
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