その日のShibuya O-EASTはまるで神殿のようだった。2009年から始まった、サエキけんぞうプロデュースによるアイドル・フェスティヴァル「TOgether」。大規模なイベントとしては3回目となる「NEO GIRLS FESTIVAL TOgether~プレミアム~」が5月18日に開催された。
まずは名古屋からやってきた、宮倉まな、城奈菜美(しろななみ)、★SAKUR∀ん☆(さくらん)の三人が、テンポよく2曲ずつを披露。勢いのある幕開けだ。続いて、大阪で活躍する葉月(はづき)。ホームではない土地で、緊張のためか声が震えるが、大阪から駆け付けたファンたちの「葉月」コールに、徐々に笑顔に。2曲目では客席で騎馬戦状態になってダイブするツワモノたちもおり、会場のボルテージはいっそうヒートアップした。序盤から畳み掛けるように次々とアイドルが登場するこの展開、やはり「アイドルフェス」と呼ぶにふさわしいイベントである。まだまだ温度が上昇し続ける場内、HARU☆HINA(はるひな)、デカシャツ喫茶、メイドのかんづめ、と三組がパワフルなステージを披露し、しばしの休憩となった。
だが、興奮状態の客席は静まることなく、ヴォーカリスト集団・Veil(ベール)の登場によってさらにテンションは上昇。そして次に現れたのは黒崎真音(くろさきまおん)。ヲタ芸の打てるライブ&イベントスペース「ディアステージ」のメンバーであると同時に、すでにソロとしてメジャー・デビューも決定している。ヲタによるMIXやケチャもハードで、ジャンプ力も驚異的。ディアステージのメンバーも登場して華を添え、黒崎真音自身が作詞作曲した楽曲も歌われた。
小桃音まい(ことねまい)は、小柄な体で細かい振り付けを踊りこなしてフロアを魅了。これまで1,000枚から2,500枚の限定シングル3枚を完売してきたことで注目されている存在だ。「なのです☆」では、ステージ上で左右に動く小桃音まいに合わせてヲタも一緒に移動する「民族大移動」が発生した。5月26日にリリースされる「アニメ☆ダンス BEST GIG」から、アニメ『化物語』で流れて以来、ヲタの間ですでに有名曲となっている「恋愛サーキュレーション」も歌い踊り、可憐な魅力を振りまいた。
アフィリア・サーガ・イーストは、音楽プロデューサーの志倉千代丸と桃井はるこがプロデュースする10人組。自らMIXを打つなど、「アフィリア王国」という架空の世界をコンセプトにしたカフェ&レストラン「王立アフィリア・魔法学院」から生まれたユニットならではの盛り上げ方をしていた。桃井はるこが作詞作曲した楽曲を歌うなど楽曲面も魅力的。キュートさを強調した衣装やダンスも、このユニットのコンセプトを感じさせた。ヲタも騎馬を組んだり、上半身裸になったりするなど、大変なヒートアップぶりに。
続くディアステージ・オールスターズのステージでは、一定の治安が保たれているものの、ほとんど暴動寸前の状況に。舞台と客席を分ける柵にもヲタがよじのぼり、柵はもはやアイドルにより近づくための道具と化していた。メドレーで続けざまに盛り上げていき、ステージ上のディアステージ・オールスターズと、フロアのヲタがそれぞれ電車のように走り回るというハードコアな光景も。アキバのパワーを見せつけてくれた。
数々のアニメやゲームの主題歌を担当し、アキバ系として絶大な人気を誇るMOSAIC.WAVには、かつて桃井はることユニット「UNDER17」を組んでいた小池雅也がギターで参加。「電波ソング」とも形容されるMOSAIC.WAVの楽曲は、針の振り切れたような過剰なポップさで中毒性を感じさせた。高まったヲタたちが肩車をしていたほどだ。
トリはもちろんアキバ文化の女王たる桃井はるこだ。フロアからは咆哮のような歓声が湧き起こる。隅から隅まできっちり煽るステージングはやはり別格。この日は、コスプレアニソンDJのサオリリスによりUSTREAMも楽屋から生放送されていたが、桃井はるこは「『TOgether』の最初の頃はUSTREAMやTwitterとか言ってなかったよね、やっぱり私は通信手段はライヴとサイリウムが好きです」という主旨の彼女らしい発言をし、数え切れないほどのウルトラオレンジのサイリウムが彼女に捧げられた。桃井はるこはアメリカで5月に「FanimeCon 2010」、6月に「MOMO-I NIGHT FEST 2010」に出演し、さらに6月にはフィンランドの「DESUCON 2010」に出演するほど国際的な人気を誇っているが、それは前述の発言のように信念を感じさせる活動の成果に他ならないだろう。
桃井はるこの発言には、もうひとつ印象的なものがあった。彼女が自分の昔のサイトを読み直したところ「アイドルは村で一番美しい娘がいけにえになるようなものだ」というようなことを書いていたのだという。しかし、今のアイドルはそうした翳りが消えてハッピーなものになった、とも彼女は語った。そう語る桃井はるこは、ステージ上でいけにえどころか女神のような存在であったのである。
一方でフロアに目を移せば、MIX、ケチャ、サンダースネーク、OADなどを次々と繰り出すヲタたちは、ひとりひとりがサイリウムを持った祝祭の司祭であるかのようだった。だからこそShibuya O-EASTは神殿のようだったのだ。アフィリア・サーガ・イーストとディアステージ・オールスターズは、従来のアイドルよりもヲタと近い地平に立っていることを感じさせた。そうしたアイドル文化のある種の先鋭化を「NEO GIRLS FESTIVAL TOgether~プレミアム~」は我々に示したのだ。オタク文化のなかでも、ここまでフィジカルに進化したものはアイヲタ(アイドルオタク)ぐらいであろう。
桃井はるこは「TOgether」を「フリーダム」と表現したが、その自由な世界が今後どう進化するのか、まだまだ目を離すことができないと再認識した夜だった。