中学生棺桶というバンドがある。中学生棺桶は、音楽事務所に所属しない正真正銘のインディーズバンドながら、およそ年1枚ペースでリリースを重ねている。一般的にはあまり知名度は高くないかもしれないが、英語詞を毛嫌いするパンクバンドとして、着実に支持層を拡大している。
パンクと一口に言ってもその音楽性は様々だが、中学生棺桶は、Hi-STANDARDの躍進以降日本の主流となった感のあるギターロックの延長線上のパンク(いわゆるメロコア)バンド、ではない。彼らの楽曲は、ドゥームロックの系譜に連なるbpmの遅い、禍々しくも、どこか切なさが感じられるリフが中心のもの。テクニックを見せつけるようなギターソロもほとんどなく、とにかく印象的な重いリフと、同様に印象的な唄メロの連続でできている。
そして、「パンク」という言葉は精神的な意味合いでも使用されるが、今や日本映画界に欠かせない存在となり、NHKの『プロジェクトX~挑戦者たち~』のナレーションなどでも知られる田口トモロヲが、ばちかぶり時代にステージ上で脱糞したことは有名なエピソードだが、中学生棺桶は自傷行為や機材破壊などといった往年のパンクファンを喜ばせるパフォーマンスには決して走らず、メンテ不足の機材をヴィンテージとして貸し出し機材費をとりながらトラブル時の対処ができない、サイケデリックを理由にトイレの照明まで赤くされては尻がふけたのかも確認できない等、ライヴハウスの営業方針やスタッフの態度に対する抗議としてのみ、メンバー全員全裸でパイプ椅子に座って黙々と演奏を行ったり、演奏の最中に抗議の口上を事細かに展開して観客とスタッフ自身に直接問題提起したりするなど、そういった意味でもパンクであると呼ぶに相応しいバンドであると言えるだろう。
また、音楽性だけではなく、ボーカルの「かのう葉蔵」が『COMIC快楽天』(ワニマガジン社)にコラムを連載、ベースの「志村」はバンドと並行してAV女優として活動していた経歴があるなど、メンバーの個性も注目されている(当然その個性と音楽性は分かちがたく結びついているのだが)。
そんな中学生棺桶が、6月2日発売のニューアルバム『矛先についたガム』(DIWPHALANX RECORDS)の先行シングルとして、5月21日に『Mは三つ目で マゾじゃない』を発売する。彼らのような活動形態のバンドが、アルバムの前にシングルをリリースするということだけでも十分異例なのだが、なんとこのシングル、あの懐かしの短冊型8cmシングルなのだ! よもやこのテン年代に、食玩のオマケなどではない、商品としての8cmシングルの新譜を目にすることがあるとは、誰が想像しただろう。
ボーカルのかのうはその歌唱だけでなく、連載コラムやライブでのMCでも口角泡を飛ばすテンションの人物ながら、その守備範囲は多岐にわたっており、パンクやドゥーム・ロックだけでなく、アイドルや特撮、安全地帯やSing Like Talkingなど、アーバンな要素の強いJ-POPといった、8cmシングルとともにその文化を形成していったジャンルへの造詣も深い。
今回のシングルのリリースに込められているに違いない、強い思い入れを解き明かすべく、彼らにインタビューを申し込んだ。
──8cmシングルのリリースということで、本当に驚きました。発売元のDIWPHALANX RECORDSさんからは、反対されたりしなかったのでしょうか?
かのう葉蔵(以下「かのう」) アナログ盤のリリースもすすめられたんですが、「いや! 興味ないです」って。シングル出すなら、縦長8cm以外に考えられないので。
──なるほど。タイムスリップグリコのようなものもありましたし、8cmシングル自体のプレスがまだあるだろうことは分かるのですが、あの短冊ケースを作れる業者さんはすぐ見つかったのですか?
かのう 生産してるところはもうないらしいですよ。無理矢理再現した…みたいな感じではないかと。
──紙のデジパック仕様はともかく、明らかに12cmの、いわゆるマキシシングルの通常のケースよりも経費がかかりますよね。DIWPHALANXさんの懐の深さにも頭が下がりますが、かのうさんにも当然強い思い入れがあったわけですよね。
かのう 今の主流のやつよりは単価が相当違うらしいですよ。でも昔から出したかったのが、他の何よりも短冊シングルだったんです。自分の世代にとってはアナログなんかよりアレが一番身近なんですよ。60年代でも70年代でもなく80年代の、昭和で言うと末期。無意識に染まりきっていた、あの頃のノリ。どうしたって自分の根底にあるものは、そしていつまでも拭えないでいるものは、自分自身がちゃんと体験して通過したああいう日本の文化なんですよ。日本にしか無いしね、あの形のシングルは。日本人ならアレですよ。
──これまでのリリースは、全てジャケットをイラストレーター・漫画家のhayashi3さんが担当されていましたが、シングルのジャケットは良い意味で昭和な、8cmシングルの時代を思い起こさせる写真とデザインになっていて素晴らしかったです。
かのう 8cmシングルジャケならではの構図……ってあるじゃないですか。直接にインスパイアされたのは、井上陽水とか鈴木雅之とかバービーボーイズのジャケットですね。今回、シングルだけじゃなくアルバムのジャケでも随所に、自分の考える「CDが普及し始めた頃の日本のロックバンド」のイメージで、趣味を出しまくってみました。パンクバンドのCDだからって、ロンドン風に白黒反転エフェクトにしなきゃとか、英語をちりばめなきゃとか、そういう「教科書通りにトンガれ!」みたいな風潮にこそ反発するのがパンクスだと思うんです。そもそも日本人として、必死に外人に近付こうとしてる様な連中は馬鹿馬鹿しく見えますよ。俺には。
──3曲目にタイトル曲のオフボーカルバージョンが収録されていますが、これも「Instrumental」ではなく「オリジナル・カラオケ」となっているあたりに、強いこだわりを感じました。
かのう 当然です。カラオケですから。カラオケ世代ですから。かっこつけちゃダメ。
──では最後に、シングルとアルバムの内容についてお願いします。
かのう 中学生棺桶の曲は、まずロックはリフなのでリフ重視なんですが……しかも浮き沈みの展開もアレンジも暗めなんですが、メロ含めキャッチーではあると思うんです。唄も一本調子じゃないし、決して沈みっぱなしにはならない。中でも特にキャッチーな曲を、シングルにしてみました。アルバムも、ライブと大して変わらない質感で録れてます。あざといマスタリング小細工はしないで、よくいる「実力の無さと楽曲の退屈さを音圧で誤魔化す卑劣バンド」との差別化を狙ってみました。歌詞も面白いと思うので、覚えて唄って下さい。あ、ライブにも是非来てみて下さい。食わず嫌いの偏見で笑ってないで、生で観ながら笑ったらいいと思いますよ!
(取材・文=下原直春)
◆中学生棺桶(ちゅうがくせいかんおけ)
2002年結成。かのう葉蔵(唄&パーカッション)、広末(ギター)、志村(ベース)、石垣(ドラムス)の4人組パンクバンド。05年に志村が加入し現在のメンバーに。精力的なライブ活動を行い、リフの強度にこだわった曲と、歌謡曲の影響も垣間見えるメロディーと日本語の響きに自覚的な唄で支持を広げている。これまでにディスクユニオンのレーベルから3枚のアルバムをリリースしており、6月2日に4枚目となるアルバム『矛先についたガム』のリリースを控えている。
◆ライブ予定
『矛先についたガム』発売記念企画「しつこいガムでいる者ども」
6/26(土) 中野 MOONSTEP
「反逆」という言葉の意味を、君は知っているか
なんとも懐かしい形!! これこれ、コレです!!