歴史発掘

消えたアダルトメディア「裏本」の衰退

 インターネットの普及によって、アダルト関連のメディアはこの10年ほどで劇的な変化を遂げた。そのひとつが、裏系アダルト媒体の消滅、または極端な衰退である。

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『裏本時代』著:本橋信宏/飛鳥新社

 現在、静止画であれ動画であれ、無修正の画像はインターネットで至極簡単に、しかも無料でいくらでも入手できる。下世話な表現ではあるが、心身ともに健康な男性の「実用」に資するのであれば、無料のサンプル画像で十分である。よほど熱心なマニアか、あるいは何らかの理由がなければ、有料画像を購入することはないだろう。この「無修正アダルトをタダで集める」傾向は、ADSLなどの定額高速通信が普及するようになった1990年代末から加速したことは言うまでもない。

 そして、90年代中期までは、そうした無修正メディアと言うものは、カネを出して買うのが一般的であった。

 といっても、インターネットの普及以前に、すでに裏本や裏ビデオといったものは相当な値崩れを起こしていた。とくに、裏本は顕著で、80年代には1冊当たり1万円以上はしたケースが多かったのが、90年代半ばには1冊2500円から5000円と相場は半額以下になった。「どれでも5冊で1万円」といった、セット値引きも多く見られたのは裏ビデオと同じ。

 当時、歌舞伎町のある業者に聞いたところでは、「都内や近郊で撮影したフィルムを、深夜にクルマで北陸のある印刷業者のところに運ぶ。そして、ものすごいスピードで印刷、製本して、また深夜の高速道路を飛ばして、都内に運びこむんですよ」とのこと。そうやって作られた裏本の、6~7割か、それ以上が都内で、残りが関西で販売されると聞いた。

 さて、裏本をデータ化したCD-ROMが出回るようになると、値崩れは決定的なものとなった。1枚のCD-ROMに裏本4冊から6冊の画像が入っていて、売価は1枚2000円から3000円。現物からスキャンしたもので画質はよくないものが少なくなかったが、それまでは1冊買うのがやっとだった裏本を、画像データとはいえ、まとめて安く購入することができるようになった。

 その後、CD1枚が1000円とか、CD1枚に裏本が20冊とか30冊とか入ったものが続々と登場したが、売れ時は「さっぱりですよ」(都内の業者)とのことだった。その頃になると、すでにインターネット上で裏本専門サイトがいくつも立ち上がり、無料で裏本の画像を入手できるようになっていたからである。

 そして2010年、裏本が新たに制作されたという話は聞かれなくなった。インターネット上では、現在も多くの裏本画像を閲覧できるようだが、すでに過去のものという感は否めない。
(文=橋本玉泉)

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