【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第5回】

全員かわいい!! 過剰なほど甘酸っぱく、幸福な輝きを放つ「9nine」のイマ

ninehikarinokage.jpg「ヒカリノカゲ(初回限定盤A)」ビクターエンタテインメント

 先日、原宿の竹下通りを歩いていたら、「川島海荷ちゃんが付けていたブレスレット!」という、大きな写真入りポップが店先に出ていた。なるほど、川島海荷は竹下通りを行き交う中高生の女の子たちの憧れの対象なのか。今回ご紹介するのは、そんな川島海荷がメンバーの9nineが1月20日にリリースしたシングル「ヒカリノカゲ」だ。

 当初はその名の通り9人のメンバーがいたものの、加入と脱退を繰り返し、川島海荷、佐武宇綺、下垣真香、西脇彩華、三浦萌という現在の5人に固定されたのは2009年3月のこと。とにかくメディア露出の多い川島海荷や、Perfumeのあ~ちゃんの妹である「ちゃあぽん」こと西脇彩華に注目が集まりがちなグループだが、全員が可愛い。1月28日に下北FMの番組に9nineの下垣真香と三浦萌が出演するというので、下北沢の商店街へ足を運んでみたが、その二人だけでも充分満足できたぐらいだ。番組は商店街に面したビルの一角から放送されたのだが、車が通る度に道路に溢れるヲタが轢き殺されそうになるほど、人が集まっていた。

 この9nineの楽曲で特に衝撃的だったのは「突然のラブコール」という楽曲だった。09年10月21日にリリースされたシングル「Smile Again」のカップリングなのだが、冒頭のピアノからして、シカゴの「サタディ・イン・ザ・パーク」を連想させる、ブラスの音色が効果的に使われた素晴らしいブルー・アイド・ソウル・アイドル歌謡だったのだ。

 クレジットを見ると、COZとTAKAからなるソングライティング・ユニットのGravity Sessionによる作編曲。作詞はCOZだ。「彼氏なんていらない」と言っていた女の子が、恋をしたとたん夢中になってしまう姿を描いている。なんて甘酸っぱい。なんて気恥かしい。なんてベタだ。大好きだ。

 アイドル・ポップスとは何か、という質問をヲタにすれば、百人百様の答えが返ってくるだろう。疑似恋愛を体験させてくれるポップス、聴けば聴くほど頭が悪くなるポップス……。その一方で「突然のラブコール」は、過剰なほどの甘酸っぱさに、思わず嗚咽して号泣しそうになるポップスであった。言い換えれば、安心して自分が気持ち悪くなれるポップス。こんな楽曲、滅多にない。

 そして9nineの待望の新曲「ヒカリノカゲ」だ。「突然のラブコール」や「Smile Again」と同じくGravity Sessionが手掛けたミディアム・ナンバー。アコースティックな感覚を生かしながら、打ちこみの違和感を抱かせないサウンド・プロダクションが、楽曲のせつなさを浮かび上がらせている。歌詞のテーマはややスケールが大きくなっていて、日常性から離れているために一抹の寂しさも覚えた。しかし、ヴォーカル・プロダクションは繊細で、9nineの5人が歌うからこその魅力を引き出している。

 オリコンの週間ランキングで28位となった「ヒカリノカゲ」は、初回盤が2種類ある形式でリリースされたのだが、初回盤Aには配信限定のみだった「Happy×2 Eyes」をブラジリアン・テイストにした「Happy×2 Eyes (yu-gure party remix)」が収録されているのでオススメだ。

 9nineに良質な楽曲を提供するGravity Sessionは、そもそもはCOZとTAKAがバンド仲間であったものの、COZの病気で活動を休止し、その後再会してソングライティング・ユニットとしての活動を始めたという物語もある。

 アイドルと特定のソングライターの幸せな関係は、特殊な場合以外はそう長くは続かない。そして「ヒカリノカゲ」には、今この瞬間の幸福な歌声が響いている。Gravity Sessionの音楽と9nineの歌声が輝きをもたらしてくれる時間が、少しでも長く続きますように。そう願ってしまうシングルだ。

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