緊縛は日本のSM界においてメジャーな分野だが、プレイの際に安全性を確保したうえで女体を美しく縛り上げるには専門的な知識や技術が必要なため、緊縛を行うAV撮影やショーの現場では「縛師」「縄師」などと呼ばれる縛りの専門家たちが重宝されている。そしてこの緊縛専門家の世界には、男性と比べればずっと少数ながら、活躍している女性たちの姿がある。
そういった女流縛師は、どのようなきっかけで緊縛を始め、どこへ向かおうとするものなのか。現役縛師、荊子(いばらこ)さんの話を聞いてきた。
──そもそも、昔からSMが好きだったんですか?
荊子 いいえ、それどころか。わたし、たぶん中高生のころ山に捨ててあった変なエロ本を見たせいで、この世界に触れてみるまでSMってみんなスカトロをやるものだと勘違いしてて「ウンコ塗るなんてムリ!」って思ってました。
──それはひどい(笑) では、緊縛との出会いはどういう経緯で?
荊子 高校の頃からオブジェとかの立体表現がやりたかったんですけど美大受験には失敗して、美術専門学校のイメージクリエイション科っていう、村上隆さんとか小沢剛さんみたいな変わったクリエイターが講師で来ている現代美術の作家を育てる科に入って、課題で”包んで縛る”っていうテーマの作品を作ったんです。
──何か、物体を布で包んで紐で縛ったっていうことですか?
荊子 そうです。布の外側の空気って、時間が経つと流れていくじゃないですか。「だけど、梱包した内側の空間は!?」みたいなコンセプトの作品を作ってました。最初は段ボールから始めて、柔らかい布とか大きなアドバルーンとか毎日いろいろ包んでいるうちに、人を縛って置いといたら面白いハプニングアートになると思って、映像をやってる先生に相談したところ縛師の千葉曳三さんを紹介してもらえて、縛り方を習いに行ったんです。
──緊縛する素材のひとつとして、たまたま人体を選んだわけですね。それではSMのことは知らないまま千葉さんのところへ?
荊子 はい、人が緊縛されてる姿とかボンデージ衣装は好きでしたけど、プレイやSM文化についてはほとんど知らなくて、あくまで形からです。当時は今ほどSMがファッション的に認められてない時代で、本物の女王様になんで始めたか聞くと、みんな「ちっちゃい頃からいじめてた」とかって言われて、わたしだけ場違いだという思いはありました。でも、入った以上は染まりたいっていう気持ちもあって、かなり虚勢を張ってましたね。
──初めてM男さんと接したとき、怖くありませんでした?
荊子 初めて見たときは、千葉さんがわたしに「こんな感じだよ」って説明しながら、ブヨブヨ体型のM男さんを縛ってたんです。おじさんがおじさんに縛られて「う、う~ん♪」みたいに反応してるのを見ていたら、気持ち悪くはありつつ、SM世界への興味も湧いてきました。
──縛り手が男性でも感じるM男さんって、けっこういるもんなんですか?
荊子 います。「あの縛師の縄だったらいい」って。上手い人に縛られると、やっぱり気持ちが入っちゃうみたいです。
──ご自身が縛られたことは?
荊子 一度は吊りを経験しなきゃいけないって言われて、千葉さんに横吊りされました。片脚をあげた時点でもう痛くて痛くて! それ以来トラウマになって、吊りは二度とされてません。ただ、その経験のおかげで初めて吊られる女の子のツラさが理解できるので、AV現場で「すごくツラいのは分かるよ! 5分だけガマンしてね!!」みたいに声をかけたりはしてます。
──縛師ってS役でしょう? 実は先ほどからずっと思っていたんですけど、荊子さんて癒し系というか、とても優しい感じですよね。プレイに支障ありません?
荊子 SMにはイヤがる女の子を本気で酷い目にあわせるようなスタイルもありますし「何されるか分からないのがいい」っていう考え方も分かるんですけど、わたしは縛りと女の子の反応と体がピタッと一致したときがいちばん美しくてエロいと思っているので、コミュニケーションを重視しているんです。初心者でも安心なんで、わたしのところで初SMを経験してから過激な人のところへ行くっていうMの子も多いですね。
──縛られたい人たちって、何を求めてるんでしょう。
荊子 かまって欲しがってる子が多いとは思います。縛られてるのって背中からギュッて抱きしめられてるのと同じ感覚で、放置されててもすごく安心できる心地よさがあって、でも抵抗はできない理不尽さがあったりとか。受け入れつつ抵抗するっていう快感ですね。
──今後、荊子さんが目指していくところって、具体的に何かありますか?
荊子 緊縛セラピーの店をやりたいんです。「ストレスたまったからちょっと縛ってや~」「スッキリしたから帰るわ~」みたいな、ごく普通の人が、マッサージを受けに行く感覚で緊縛を受けられる場所。ただプレイするのではなくて、性に近いところで、カウンセリングまでできる場所ですね。「SM」とか「緊縛」って付くとマニア世界のものっていう印象になっちゃうから、どうやって一般の人に伝えていくかが難しいところです。
実際にお話した荊子さんの印象は、穏やかな物腰と知的な語り口調の現代アーティスト。かと思うと、「合コンで男の人を『ちょっと縛られてみない?』って誘ったりはしますよ~。本心は別に縛りたいわけじゃないんですけど、その方が誘いやすいじゃないですかぁ(笑)」などと縛師ならではの口説きテクを披露し、「もっと普通の人がやってるんだって分かって欲しい」と、普段着での撮影に応じてくれる気さくな一面も。
仕事で疲れた帰りには、癒し系縛師にまったり縛られリフレッシュするのも悪くない!?
(取材・文=瀧昌臣)
◆荊子(いばらこ)
縛師。オフィシャルサイト【http://www.ibarako.net/】にてイベント出演依頼・調教依頼受け付け中。
◆荊子出演レーベル『新世界』
縛師荊子・監督の安藤ボンをはじめ、女性スタッフのみで制作されるシリーズ。既存のAVとは違う角度で、ただの肉体的快楽だけではなく、心の奥底深くに潜む「女という生き物の中にうごめく業(ごう)」を探り、表現露呈する。シリーズ最新作『新世界6』では、荊子宅を訪れた不運な保険外交員が緊縛調教に被虐の悦びを見出す。購入は下記から。
・DVD通販「THE ANDO BON」
・動画配信「奇之ワークス」、「DUGA」、「EIC-AV」
『女主人のフェティッシュな責め vol.2 池野朋/井上真央/荊子』
荊子が女躰をフェティッシュに責め嬲る!