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夫婦間でもレイプは成立する

夫婦間でもレイプは成立するの画像1※イメージ画像 photo by Photochiel from flickr

 かつて日本の法律では、「夫婦間では、強姦は成立しない」というのが通説だった。婚姻生活のなかでは、セックスは当然の行為であると認められており、配偶者からの性的な要求には応じるべきであると考えられていたからである。

 しかし22年前に、そうした考えを否定する判決が言い渡されている。

 1984年9月のこと、鳥取県の主婦A子さん(22)は、度重なる夫(26)の暴力に耐え切れなくなって実家へと逃げ帰っていた。ところが9月下旬、夫は彼女を連れ戻そうと29歳の友人とともにクルマでA子さんの実家近くで待ち伏せし、帰ってきた彼女をクルマに無理やり引きずり込むと、そのまま発進。県内の山中にクルマを停めると、夫と友人は車内でA子さんの腹部や頭を殴りつけたうえ、2人でレイプした。

 以前から夫はA子さんに対して、木刀やビール瓶で殴りつけるなどのひどい暴力を日常的に振るっており、彼女は何度も実家に帰っていた。しかもこの9月の事件の後、夫は彼女を自宅にチェーンで繋ぎ逃げられないようにするなど、常軌を逸した行動に出た。

 これにはさすがにA子さんもたまりかね、夫の隙を見て脱出。近くの交番に助けを求めた。

 ところが警官は、「夫婦のことは民事なので介入できない」と、完全な門前払い。そこで彼女は行政の婦人相談所に駆け込み、弁護士と相談した上で離婚訴訟を起こし、翌年85年に離婚が成立した。

 さらに、85年1月には、夫を婦女暴行と傷害で警察に告訴した。「妻が夫を強姦で訴える」という、前代未聞の事例だったが、鳥取地検は85年3月5日に起訴に踏み切った。

 裁判では、夫は「妻に殴られたために殴り返しただけ。服が破れたのも妻が暴れたのが原因。行き過ぎがあったかもしれないが、罪に問われるほどのことではない」と無罪を主張した。弁護側も、「民法によって、夫婦には性を求める権利と応じる義務が認められている。暴行や脅迫があった場合でも、暴行罪などに問われることはあろうが、夫婦間に婦女暴行罪は成立しない」と主張した。

 だが、86年12月17日、鳥取地裁の相瑞一雄裁判長は、暴行の事実を認定し、夫に懲役2年10カ月(求刑・懲役3年)、29歳友人に懲役2年(求刑・同2年6カ月)の、それぞれ有罪判決を言い渡した。

 これに対して夫は不服として控訴。しかし、広島高裁松江支部は鳥取地裁の判決を支持し、控訴を棄却。高裁の古市清裁判長は、一審の事実認定にさらに追加し、「夫婦生活が事実上破たんしている場合には、互いに性を求める権利・義務はない」と判断。夫婦間であっても婦女暴行罪が成立するという考えを示した。

 それでも夫は最高裁に上告したが、87年9月に取り下げ、刑が確定した。

 この裁判によって、それまでは夫の暴力や横暴に泣き寝入り状態だったものが、「夫婦の間でも強姦罪はありうる」と、法的に基準が示されたわけである。

 ただし、夫婦間の暴力を犯罪行為と認定する「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」いわゆるDV防止法が成立するのは、01年まで待たなくてはならなかった。
(文=橋本玉泉)

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『116人のレイプ体験』著:三井京子/データハウス刊

 
レイプ被害は泣き寝入りを含めると年間15万件とも

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