11月3日に行われた、Jリーグ・ヤマザキナビスコカップ(以下、「ナビスコカップ」)の決勝戦において、劣勢と見られたFC東京が見事に2度目の優勝を飾った。しかし皮肉なことに、FC東京の優勝よりも、川崎フロンターレ(以下、「川崎」)の準優勝の方が大きく報じられてしまった。
その原因は、表彰式の際、授与されたメダルをすぐに外すといった川崎の選手たちの態度にあった。ナビスコカップに限らず、敗北の悔しさから準優勝のメダルをすぐに外してしまう光景はそれほど珍しいことではない(表彰式が終わってから外す選手はかなり多い)。圧倒的に攻勢をかけ続けながらも先制され、その後もゴールマウスを破ることができなかった自分たちの不甲斐なさに、川崎の選手たちが歯噛みする思いであったことは想像に難くない。
しかし、スポンサーや、日本サッカー協会の名誉総裁である高松宮妃久子さまの御前で、握手を拒否する、手すりにもたれかかる、しゃがみ込む、協会幹部に背を向ける、ガムを噛むといった行為をこれでもかと重ねた結果、川渕三郎キャプテンが、「バッドルーザー、いやワーストルーザーに怒っている。表彰式の態度がなっていない」と酷評し、鬼武健二チェアマンが賞金の没収などを含め、処分を検討するコメントを残す事態となった。
事態を重く見た川崎は、準優勝の賞金5000万円の受け取りを辞退し、ガムを噛むなど特に態度の悪かった森勇介選手に出場停止処分を課す旨を発表。伊藤宏樹主将と井川祐輔選手会長が鬼武チェアマンを直接尋ね謝罪した。また、8日にホームである等々力陸上競技場で行った対ジェフユナイテッド市原・千葉戦の練習前には、川崎の選手・スタッフがスーツ着用の上、サポーターに対して謝罪。森は顔をくしゃくしゃにして号泣していた。
サッカー選手としての実力は評価されながらも、あまりに警告と退場が多いことから前所属のベガルタ仙台をシーズン中に解雇されたこともある森に関しては、どんなに反省の涙を流して見せたところで「もう信用できない」といった意見もある。肘打ちによる一発退場などのラフプレーは後を絶たず、周囲からの注意やアドバイスに耳を傾けているとは思えない。本人も、チームの中で唯一処分を受けたことに関して、「今までのことを含め、仕方がないと思う」と語っている。
処分と謝罪を経て、サポーターとしては今後の川崎のパフォーマンスを見守るしかない――という形で、騒動は一応の決着を見るのかと思われた。ところが、欧州出張のため決勝戦を観戦していなかった犬飼基昭日本サッカー協会会長が、5日に帰国した際に、当事件について「サッカー界、スポーツ界の恥」だと激怒したことが小さな波紋を呼んでいる。
犬飼会長が社長を務めていた浦和レッドダイヤモンズ(以下、「浦和」)は、2004年のナビスコカップ決勝戦において、奇しくも川崎と同じくFC東京を相手に、120分スコアレスドローの末に迎えたPK戦で破れている。その際の表彰式の動画がYoutube上にアップされ、話題となっている。問題の動画には、表彰式の最中、浦和の選手に先日の川崎ほどの態度の悪さは見られなかったものの、永井雄一郎(現清水エスパルス所属)選手が、銀メダル授与後すぐにメダルを外す姿や、犬飼会長がガムか何かを噛んでいるように口を動かしている様子が収められている。
もちろん、当時の浦和の選手たち及び犬飼会長の行為と、今回の川崎の選手たちの行為を今さら比較してどうなるというものでもない。問題のYouTube動画にも、「比べる事自体間違ってますねw」といったコメントが寄せられている。しかし一方で、「今回の一件だけでなく、犬飼ほど人間として尊敬できない男も珍しい。さっさとサッカー協会から消えて欲しい」といった批判的なコメントも寄せられている。
犬飼会長は、Jリーグの開催時期を欧州と同様の秋春制にすることを主張しており、秋春制によって発生するデメリットを懸念するサポーターからは「非現実的だ」と反対の声があがっている。昨年11月には鬼武チェアマンが「最終的な結論は出ていないが移行は困難である」という旨を記者会見で発表したが、犬飼会長は「協会が改革を命令しているわけではなく、アイデアを言っている。常軌を逸している。相当、低次元の話だ」と激怒している。こうした発言や対応に、雪国に本拠地を置くクラブに限らず、Jリーグを愛し支えている多くのサポーターが怒りと疑問を表明しているが、一年後の現在に至るまで自説を曲げる気配はまったくない。この動画が広まれば、すでにかなり開いてしまっているサポーターと犬飼会長との間の溝が、致命的な深さまで広がる契機となるのではないだろうか。
(文=B.I.Sachiko)
『今日、有効な戦術が 明日、通じるとは限らない FIFAワールドカップ・ベスト4への常勝ミッション』宝島社
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