押尾学事件のMDMA、酒井法子事件の覚せい剤、大学生らに広がっているという大麻……違法薬物関連のニュースは連日絶えず報じられている。これら報道によって違法ドラッグに対する世間の目は厳しさを増しているが、大麻と似た作用の物質が含まれた”ハーブ”が、ネットの輸入ショップやオークションで堂々と売買されていることをご存知だろうか。
この危険な”ハーブ”の代表格は、「スパイスゴールド」「スパイスダイアモンド」などの商品名で流通するスパイスシリーズ。大麻そっくりの作用をもたらす合成カンナビノイドという物質が含まれており、パイプなど大麻と同じ吸引具で使用する。ショップの商品説明などでは「お香として使用してください」という建前が書かれているが、ほとんどの購入者が吸引目的だといわれる。
医療目的で開発された合成カンナビノイドは、アメリカなど海外では違法になっている国が多いが、日本では違法薬物に指定されておらず、野放し状態となっていた。大麻の取り締まりが厳しくなったことで、代用品として”脱法ドラッグ”であるスパイスシリーズに乗り換えた薬物使用者も多いという。
大麻をやめ、スパイスシリーズを使用している常用者に話を聞いた。
「大麻と比べると悪酔いすることもありますが、モノによっては大麻と同じ感覚で吸えます。価格も3グラム入りの一袋が3000円程度で、危険を犯して違法薬物を買うことを考えたら安い。これで合法なら、もう大麻はいらないやと思いました」
もちろん、違法でないからといって問題がないわけではない。海外での研究により、合成カンナビノイドは天然の大麻よりも効果が強いものがあると確認され、薬物依存を引き起こしやすいと指摘されている。さらに、合成カンナビノイドの研究自体がまだ途上段階であるため、過剰摂取による死亡事故の危険もあるという。
このような危険な薬物が国内で出回っていることを受け、厚生労働省は10月21日、3種類の合成カンナビノイドを含む6種の物質を新たな規制対象にする改正法を公布した。公布から30日経過後に施行される見込みで、医療用途以外での製造、輸入、販売、授与が禁止となり、違反者には罰則が科される。すでに取り扱いをやめた輸入業者も出ており、今までの脱法ドラッグのケースで考えれば、規制と同時に市場から一掃されると見られる。
ところが今、使用者側に怪しい動きが出ているという。
「スパイスシリーズが規制されると聞いて、まだ販売している業者に大量注文して買い溜めしました。今まで少しずつ買ってましたけど、こんな時はケチケチしてられませんよ。またトビ具合のいい脱法ドラッグを見つけるまで、これでしのぎたいですね」(前出)
法規制が個人的な所持や使用にまで及ばないのをいいことに、今のうちに大量購入を計画する使用者が相次いでいるようだ。この”駆け込み需要”に目を付け、ネットオークションで詐欺行為を働く輩まで出現している始末だ。
スパイスシリーズに限らず、脱法ドラッグは一般大衆の見えないところで現れては消え、消えては現れのイタチごっこを繰り返しており、抜本的な対策は見えてこないのが現状。今回の厚生労働省の改正法公布もひっそりと行われ、ほとんど報道されていないために世間の関心は低い。
違法薬物を「ダメ、ゼッタイ」の一辺倒でタブー視するだけでなく、政府が積極的に情報を開示し、薬物がなぜ禁止され、どのように危険なのかをわかりやすく広めること。そして、あらためて国民一人ひとりが薬物の危険性ついて考えることが、問題を解決に導く唯一の策といえるだろう。
(文=ローリングクレイドル)
風邪薬だって正しい用途で使わなきゃ