出版不況といわれ、大手出版社のメジャーな雑誌が続々と休刊というニュースをよく聞きます。しかしながら、世の中にはジャンルを特化し我が路を往くことで生き残る雑誌もまた数多くあるのです。「月刊むし」(むし社)「雪合戦マガジン」(雪合戦マガジン舎)「月刊ガス・レビュー」(ガスレビュー)……などなどなど。
今回から始まりました、この「辛酸なめ子の専門誌専科」は、そんな専門誌を手掛ける編集長にお話を聞いて、濃い世界の一端を垣間見ようという企画です。
栄えある第1回のターゲットは、なめ子さんの初単行本漫画『ニガヨモギ』を担当された関口勇編集長が手掛ける日本の《異空間》探険マガジン「ワンダーJAPAN」(三才ブックス)。
発売 円筒分水の魅力!
気になります!!
自ら珍スポットを求めて旅行もされるというなめ子さんとの会話の中から、新たな雑誌のアイデアも飛び出します!
──『ワンダーJAPAN』が創刊された時、廃虚や珍建築がテーマで、しかも定期刊行物ということでビックリしたんですが……。
編集長 廃墟ブームはかなり昔から何度かあったんですよね。工場ブームは本と一緒ぐらいに起こったんですけど。
辛酸 「工場萌え」とか言われはじめたころですよね。
編集長 まぁ、実際に会社の方が続くとは思ってなくて、とりあえず試しに出してみろよって感じでしたけど。
──でも、よく1号目の企画が通りましたよね?
編集長 『GEKIDAS激裏情報@大事典』っていう売れている本を作っていたので。かなりヤバい情報が乗っていて、第3巻が有害図書に指定されて東京都では18歳未満には売れなくなっちゃったんですけど(笑)。
辛酸 どんな情報が乗ってるんですか?
編集長 ”マックのポテトのできたてを食べる方法”みたいなおとなしい情報から、”パスワード解析”とか”借金取りから逃げる方法”みたいな過激なものまでなんでもあって……。でも、それが売れてたんでやらせてもらえたっていうのはありますよね。あとは、うちは定期刊行物が少なくて……定期刊行物ができれば、そこからいろいろ派生した本も出せるよって説得したんです(笑)。
辛酸 (裏表紙を見ながら)オールカラーで1200円ってスゴいですよね。昔自費出版した時にその辺のお金の事で悩んだ経験があるので、今でもオールカラーだと「おおっ」って思ってしまうんです。
編集長 お金が大変です(笑)。経費が掛かってしまって。
辛酸 極彩色のテーマパークってカラーじゃないと分からないですもんね。オールカラーでも大丈夫なくらい売れてるんですよね?
編集長 ギリギリ何とかっていう感じですよね。これを作っていけば、後で連載をまとめて本にできますし。実際、『ワンダーJAPANエリア別ワンダースポット300』っていう本も作りました。
辛酸 エリア別になってると旅行ガイドにもなりますよね。
編集長 こういうジャンルでの旅行ガイドはなかったので、そこを狙ってます。
辛酸 「るるぶ」みたいなシリーズとして出す可能性もあったり?
編集長 ずっと続けていけば、「ワンダーJAPAN神奈川版」みたいに都道府県版もできますよね。
辛酸 行ったら死ぬかもしれない場所とか、危険度も書いた方が良いですよね。廃墟とか一般の人が行ったらやっぱり危険ですよね。
編集長 中には樹海に行く人もいますから、霊的なものを持って帰ってくる可能性もありますね(笑)。
辛酸 (写真の)集め方として地方とか海外とか行くと経費が掛かりますけど、これは集まってくるものを掲載してるんですか?
編集長 基本的に廃虚や巨大建造物が好きな方に協力をお願いしています。編集部からカメラマンに「ここに行って撮ってきてくれ」ってお願いすると、「はい、行って撮って来ましたよ」っていうつまらない写真になったりするんです。自分が行きたくて行って撮ったものの方が良かったりしますし、経費的にも助かるんですよね(笑)。
辛酸 協力者の方たちは、プロじゃなくても写真が上手ですよね。
編集長 中にはデータ容量が小さすぎて画像が荒れちゃうこともあるんですけど、好きなものを撮る人ってテーマが決まってるので写真がわかりやすいのと、執念が現れてくるのか見応えがあるっていうのが大きいですね。露出オーバーとかピンズレも多いですけど、基本的には好きなんだっていうのが伝わってきます。
──謝礼とかは支払われているんですか?
編集長 それは掲載した場合には、ページいくらという形で原稿料をお支払いしてます。
辛酸 色んな廃墟系のサイトを観てスカウトもするんですか?
編集長 一番最初に作った時に、人気のサイトがあったので、それぞれのジャンルの第一人者を抑えていけたみたいで。それなので、本を作る時に楽になりました。横の繋がりもありますしね。
辛酸 協力者の方に女性はいないんですか?
編集長 女性ももちろんいますけど、男性の方がのめり込みやすいですかね。
辛酸 女性は被写体を選ぶ時に可愛い方に行っちゃいがちですよね。でも、本のインパクトはスゴいですよね。
編集長 都築響一さんの写真はスゴいですよね。「SPA!」で「珍日本紀行」という連載もしていた珍スポット界の大御所ですから。
辛酸 私も「珍日本紀行」は愛読してました。あれで旅行行く場所も決めてましたね。
──実際に行かれたところでスゴかったところは?
辛酸 この本の中だと、青森県の観光物産館とか。秘宝館が好きだったので、別府、熱海、伊勢の秘宝館とか。あとは、「おしべとめしべのことをまなぶところ」っていう、UFO神社の近くの……。
編集長 淡路島の「謎のパラダイス」ですね。UFO神社の事は知らなかったです。勉強しときます(笑)。
──実際には行かれてないことも多いんですよね?
編集長 そうですね。特集は編集部で行ってますけど、それ以外は協力者の方が詳しいですから。「どこどこの観光地が最近寂れてきてる」っていう情報はスゴく集まってきますね(笑)。地方の自慢できるスポットって逆に寂れてることが多いんですよ。
辛酸 そういうところが面白いんですよね。京都タワーも面白かったし。
編集長 京都タワーは良かったですね。
辛酸 廃墟はまだ勇気が無くて行ってないんですよね。廃墟の写真とか墓の写真を観てると異様に眠くなるんですよね。霊気を感じるじゃないですけど。こういうのってお祓いとかしてないんですか?
編集長 そうですね、特にしてないですね。
辛酸 体調に変化はとかパソコンが壊れたとかないんですか?
編集長 まぁ、(パソコンが)段々重くなって来たとか、動作が鈍くなって来たとかはあるかもしれませんけど。毎回毎回たくさんの画像データが送られて来てるので、データのせいか幽霊のせいかは分かりません(笑)。
辛酸 防空壕とか廃墟の写真とかよく観たら写ってそうですよね。
編集長 デジタルカメラになってからは心霊写真はあまり写らなくなったっていう話は聞きますよ。それだけ、綺麗に写っちゃうんですよね。でも、生きてる人の方が怨念は感じますけどね(笑)。死んだ人よりもずっとパワーがある。東北のお寺で、お堂の周り中にメッセージがビッシリ書いてあるところがあるんですけど、そういうのって霊とかよりもパワーありますよね。誰が読むんだろって感じなんですけど(笑)。建物があまりに普通のお寺とは違うんですよね。
辛酸 邪教なんですかね?
編集長 ご本人はいたってマジメらしいです。邪教なんて言ったらグーで殴られるかもしれません(笑)。
辛酸 でも、仏像とか中国の神様を象ったものとか、パワーがスゴいですよね。
編集長 中国は何にしても桁外れにスゴいですよね。この前、上海のマンションが倒れてましたし(笑)。それに比べたら日本の建物の方がしっかりと造られているので、廃墟として残りやすいのかもしれませんけど。
辛酸 廃墟だと、やっぱり軍艦島は人気なんですか?
編集長 一番の人気ですね。
辛酸 今後、観光地化されるともっと盛り上がりますよね。
編集長 廃墟好きはわりと観光化されることを嫌っていて。管理されてしまって自然のものとは違うとなると距離を置いてしまうんですよね。
辛酸 この本を観てると日本の経済とかバブルの崩壊の悲しさが出てて、清里がシャッター街になってるなんて、読まなければ知らなかった現実が分かりますね。
編集長 普通のガイドブックってそういう部分を教えてくれないじゃないですか。逆にそういう情報って知りたいですよね。だから、こんな変な本が出来上がっちゃうんですよ。
(後編へつづく)
一家に一冊