AVライター・雨宮まみの【漫画評】第3回

セックス「しなきゃいけない」ハーレム状況のSFエロ作品。女だらけの中に男ひとりで何を思う?


7andy_07160211.jpeg『眠れる惑星(ほし)』
陽気婢(小学館)

 

 陽気婢(ようきひ)というマンガ家がどんなに素晴らしいか、この一巻の表紙だけでわかってほしい。この一巻の表紙の少女の寝顔だけで、読む前から、この女の子に主人公が恋しているというのが伝わってきませんか? と、共感を強要してもしょうがないのでいろいろ説明します。陽気婢先生は、もともとはエロマンガを中心に描いていらした方で、エロマンガでもその才能は遺憾なく発揮されていたのですが、その先生が満を持して『サンデー』で発表したSF×エロの作品がこの『眠れる惑星』(全四巻)です。

 主人公の高校生、永井淳平がある朝起きたら、世界中のみんなが眠っていた……というところから始まるこの作品。頭の中えっちなことでいっぱいのお年頃の淳平君、どうせ寝てるなら……とついファミレスのお姉さん相手に狼藉をはたらいてしまったところ、なんとそのお姉さんが起きてしまう。つまり、淳平君がセックスすれば、相手を起こすことができる。というわけで、そこからはものすごいハーレム的展開が待っているわけですが、そこは淳平君にも「気になってる女の子」の一人もいるわけで、恋心もありつつ、でも周りのダイナマイトバディのお姉さん方の誘惑にもついついケモノになりつつの日常が進んでいくわけです。

 SF的物語のゆくえはここでは触れないことにして、陽気婢先生の作品の、特にエロ表現の素晴らしい点を挙げるとすると、まず陽気婢先生は山本直樹先生と日本で一、二を争うほど貧乳の女の子のエロさを描くのが上手い。そしてもうひとつは、これだけは誰も真似できないんじゃないかと思うのですが、男の欲望も、女の欲望も、全部がかわいらしい、愛すべきものとして描かれているというところです。

 主人公の淳平君は、悦吏子ちゃんという好きな女の子がいます。もちろん、悦吏子ちゃんとはセックスしたい。でも他のお姉さんに誘われるとついつい反応しちゃって、ついついセックスしちゃって、気持ち良くなっちゃう。悦吏子ちゃんは、まともに嫉妬しながらも「こんな嫉妬ばっかりしてる自分がやだ」と悩んだり、みんなでぐっちょんぐっちょんの乱交に巻き込まれちゃってしっかり感じちゃったりもする。

 陽気婢先生の世界では、男の性欲も女の性欲も同じようにかわいらしく、あたりまえのものとして描かれている。誰だってかわいい人を見たら、もてあそんでみたり、イタズラしてみたり、意地悪して反応見たりしたくなるし、なんかの拍子や、ふとした相手に欲情してしまったりする。だけど、好きな相手ともいっぱい、いやらしいことしたい。世の中では一応許されないことになっているそのダブルのスタンダードが、陽気婢先生の作品の中では、至極当たり前な、かわいい人間の欲望として描かれている。

 そこが陽気婢先生の作品の、ものすごく貴重で素晴らしいところであり、涙が出るほど大好きなところだ。大好きな悦吏子ちゃんとのセックスと、他のお姉さんたちとのセックスも、描き分けてあるものの「愛がある方が上」という描き方をしないところが好きだ。他のお姉さんたちとのセックスには、それはそれぞれの相手との、それぞれの興奮がちゃんと描かれている。セックスってそういうもので、陽気婢先生はどのセックスもないがしろにしない。愛があるセックスではその良さが描かれているし、興奮があるセックスではその良さがきちんと描かれている。

 陽気婢先生がこの世にいなかったら、私は自分の性欲を、もっと汚くて悪~いものとしてしか捉えられなかったかもしれないと思う。もちろん、愛のあるセックスも興奮してしちゃうセックスも、相手が両方を受け入れて理解してくれて、かわいいもんだって思ってくれる世界なんて、幻のユートピアかもしれない。少なくともいままでつきあった人にそんな人はいなかったと思う。けど、人はパンのみで生きるにあらずで、浮気とか本気とかそういうことの前に「人の性欲の他愛のないかわいさ」を自覚させてくれる陽気婢先生の作品と出会うか出会わないかで、人生は大きく変わるんじゃないかと思う。こんなにかわいらしく、さわやかなのにすごくエッチで、優しく、ロマンチックな作品を描ける人は、ほかには誰もいない。こんなふうに、人を好きになったり、性欲に素直になったり、男の子を誘惑できたりしたら、本当にいいなと思う。陽気婢先生、大好きです。読み始めてから12年分の感謝を、ここに捧げます。

(文・雨宮まみ)

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