AVライター・雨宮まみの【漫画評】第4回

素人が脱いだらいくらになるの? 業界人もドン引きするほどのリアルが描かれたマンガ『銭』

zeni_top.jpg『銭』5巻(鈴木みそ著、エンターブレイン発行)

 『銭』(鈴木みそ著、エンターブレイン発行)は、死にかけちゃった男のコが浮遊霊となり、出会った浮遊霊仲間とともに、この世の中の「カネの流れの仕組み」を覗き見ていく話である。というと突拍子もない話に聞こえるかもしれないし、浮遊霊とかいう設定にひっかかりを感じる人もおられるかもしれないが、もし立ち読み可能な本屋さんやマンガ喫茶に行く機会があれば、ちょっと試しに数ページでいいからめくってみて欲しい。浮遊霊うんぬんがふっとぶほどの「銭」の情報量に圧倒されるはずだ。

 しかも、その「銭」の流れはうまいこと現代のツボを突いていて、「カフェを起業するときの金勘定の流れ」や「メイド喫茶の値段」、「ペットブリーダー」「ホスト」「葬式」と誰もが一度は「実際内部で何がどーなって、あの値段になってるんだろう?」と思ったことのあるようなネタが満載。しかも「そこまで描くか!?」というくらい、しっかり調べてある。

 現在7巻で完結しているので、1巻から全部読んで欲しいのはやまやまだが、特にオススメしたいのは声優の枕営業の話が出てくる4巻(これは女の成長物語としても読めて、女としてはけっこう泣ける……)、そして「エロの値段」が出てくる5~6巻である。

 他の業界の話に関しては、実態を知っているわけではないので「へぇ~、こんなんなってんだ! すっげ~! 勉強になるな~」というテンションで読んでいたのだが、実際自分が関わってるエロ業界の話を読んだ時は、あまりの正確な情報に背筋がゾク~ッと来た。冒頭からいきなり女の写真のデータをフォトショップでイジるシーンで始まり、「今エロ本買ってんのは30代後半以上、40代のおっさんだけだ!」「でもエロ雑誌ってめちゃくちゃ創刊してて、景気よさそうなのに」「あまりにも売れないから雑誌の名前を変えてるだけですっ!」ここまでたったの7ページ。ここからは実際に「脱げばいくらになるのか?」「カメラの前でセックスすればいくらになるのか?」というエグ~い話に突入していくのだが、その金額が正確すぎてもう笑うに笑えない。われわれ業界人が、知っててもシビアすぎて言えない真実がバチッと書いてある。

 女が脱いで、カメラの前でセックスして、いろんなリスク背負ってもらえる金額は、決して高くない。その現実が『銭』には書いてある。しかもなんか、その、さっきまで素人だった人がこうカメラの前でエロ~くなっていくシーンがしっかりエロかったりして、情報量も豊富かつサービス満点。エロの業界が、普通の世界と一線引かれた別の世界じゃなく、いつそっちに転ぶかわからない、普通の世界と地続きの世界だということもよく描かれていると思う。

 他の話でもその点は同じで、ただお金に関する情報を描くだけではなく「これっておかしくない?」「なんでこんなことになるの?」という問題点が浮遊霊や現実の人間の視点でうまく質疑応答のような形で説明され、それがしっかりストーリーと結びついてゆく。

 「エロの業界」について知りたい人には5、6巻をオススメするが、そこまで読んだらぜひ最終巻の7巻も読んで欲しい。7巻はホストクラブに絡めて、「人はなぜ金が欲しいのか」「金は人にとって、どういう意味を持っているのか」という根源的なことが問われてゆく圧巻の最終章だ。読み終えた時には、お金に対する感覚、お金に対する考え方が少し変わってくるのではないかと思う。「自分はお金がどれぐらい欲しいのか?」「その金で何がしたいのか?」「ほんとは金以外のものに飢えてるんじゃないのか?」など、怒濤のように人生を問い直されるような7巻のテンションは凄い。

 もちろんフツーに読むだけでもお金の流れについて勉強になるし、そういう目的で読むのもアリかと思います。ホリエモンのブログで売り上げ1位をキープし続けるこの作品ですが、売れるだけのことはあると内容の面白さについては保証いたします。

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