"心中"のウワサも

急逝! 稀代の「ブルマンガ家」SABEは現代の太宰治だったのか?

buruma1.jpg『ブルマー200X 増補改訂完全版』著:SABE/発売元:ワニマガジン社

 繊細かつ個性的な女の子と異常な世界観、そして体操服・ブルマーへの偏愛で一部に熱狂的なファンを集めていた漫画家・SABE氏の逝去が6月8日、ワニマガジン社のHP上で発表された。

 同サイトによれば、1月28日に亡くなっていたが、「遺族の希望により」発表が控えられていたという。41歳の若さである。

 実は、正式な発表の少し前から、SABE氏の死亡説は2ちゃんねるやmixiなど、ネット上で囁かれてはいた。しかし、元々寡作でムラのある性格もあって、悪質な冗談かと流されていたのだ。それだけに正式なリリースによる訃報はファンに大きな驚きと悲しみを与えた。そして、ファンの心のどこかに「やはり……」という思いも残したのである。

jigokukumi.jpg『地獄組の女』 発売元:ワニマガジン社
人類滅亡を企む地獄組と人類を救済す
る天国組との戦いを軸に展開する「SA
BE的エヴァンゲリオン」といえる作品。
後半はカオス状態に……

 SABE氏の作品はどれもが、主人公の精神のバランスが崩れたままに終わるものが多く、それがまた魅力のひとつであった。代表作『地獄組の女』はエロマンガとして始まりながら格闘、宗教、薬物、そして人間の善悪、権力欲といった深い部分にどんどん話がシフトし、エロシーンはどんどんなくなっていった。

 メジャー一般誌で初の連載であり、遺作となった『世界の孫』は、「孫顔の女子高生の活躍」という本題からどんどんズレてなぜか「イカ偏愛マンガ」になってしまった。マンガに登場する女の子はペンギンを虐殺することを生業としていたり、酒浸りの校医だったりと、常軌を逸したキャラクターしか存在せず、ストーリーもどんどん破綻に向かい、原稿も常に締め切りギリギリ、落としてしまうこともしばしばあったので連載がなかなか長く続かなかった。才能に惹かれてか、同じ漫画家の南Q太と結婚し1児をもうけたが、結局は離婚した。

mago.jpg『世界の孫』 発売元:講談社
全てのお年寄りの心を鷲掴みにする「お
孫顔」の少女を中心とした学園コメディの
はずが、イカ好き教師のキャラが暴走し、
イカアクション漫画に……

 村田蓮爾などの大御所にも才能を認められ、業界からもファンからの評価も高かったのに、自身の破滅的な性格から長期連載には恵まれず、離婚等で私生活も破綻し、その精神の乱れが作品の狂気に拍車をかける……そんな繰り返しはいずれ破滅を呼ぶ、そうファンはどこかで予測していたはずだ。その生き方は、どこか、無頼派の文豪・太宰治を彷彿とさせる。太宰もまた、世間の評価に悩み、先輩の大作家に助けられながらも破綻の末、玉川上水で心中というかたちで自らの命を絶った。

 SABE氏の死因については公式な発表がないためなんともいえないが、以前から体が弱っていたという話もあり、遺族が長く死を隠していたところから考えても、なんらかの事態があったと考えるのが普通であろう。そして、気になるのが正式報道前、「心中で死んだ」という噂が流れていたことである。これが事実だとすれば、まるで太宰そのものではないか。現在、彼のマンガ業界外での知名度はそう高いものではないが、その作品は美少女マンガ、いや、マンガ界全体に大きな楔を打つものであったことは断言できる。後世の評価に期待して、冥福を祈りたい。
(ライター/櫻井オーストラリア)

SABE氏のHP 阿佐谷腐れ酢学園

 

『阿佐谷腐れ酢学園 エマニエル編 』発売元:ワニマガジン社

ブルマ、ペンギン、鹿、風呂小僧、カンフー……
作者の思いつきと好きなものがグチャグチャに混ざったまま
整理しないで吐き出されたような奇跡のカオスギャグ漫画

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