「梨香」
意識が部屋の外から、部屋の中に戻る。
「めっちゃ気持ち良いよ」
顔の輪郭が崩れるほど大きな口を開けて、梨香はモノを咥えている。
「もう…出したい」
たとえその行為が、周りから見たらどれだけ滑稽に見えようとも、「気持ち良い」という事実からは逃れられない。
「やばい…もうイく」
むしろ、どれだけ滑稽でもいいから、その事実に飛び込みたい。
「やばい…出るっ!」
口からモノを抜こうとしが、梨香の口が強く僕のモノを掴み、離さない。梨香のしゃぶるスピードが早くなる。
「やばいやばいやばい! 口に出ちゃうよ」
なぜ精子を出すことが終着点なのだろうか、と一瞬思ったが、そんな答えを出したところで何も変わらない問いは、快楽の前に儚く消える。
「やばいやばい」
梨香は止まらない。その姿はどこか「私が出すんだ」という使命感にも似た気迫を感じた。
「イ、イくっ…!」
亀頭の先端から、大量の液体が放たれたのがわかった。それと同時に、身体中に広がった炎がすぅーっと小さくなっていく。
梨香は口からモノを離すと、まるでAV女優がするかのように舌をベーっとした。そこから精子が手のひらにダラっと落ちる。舌先にわずかに残る精子の糸が、カラオケの部屋のライトの光を浴び、キラキラと輝いていた。
「口の中に出して大丈夫だった?」
コクリと、梨香は頷く。
「そういえばティッシュないなって思ったから。だったら口の中でいいかなって。でも、さすがに飲む勇気なかった」
僕はカバンに手を入れてポケットテイッシュを取り出す。何枚かとって渡すと、梨香は「ありがとう」といつもの笑顔に戻り、精子をティッシュで包んだ。
「今まで口の中に出されたことあるの?」
精を抜き取られた僕は頭が働かず、思った素朴な疑問を何も考えずに口にしてしまった。
だが梨香はそんな質問にも明るく答えてくれた。
「うん、あるよ。でも、やっぱりなれないね」
「そうなんだ」
「うがーーって感じになるの」
梨香の表情が本当に「うがーー」という表情だったので、僕は笑ってしまう。
「なんで笑ってるの!」
「いや、なんか顔が面白くて」
「面白いってなにー!」
梨香は元の明るくて高い声で言った。その明るい声が部屋の中に響き、僕ら二人を包む。薄暗い部屋の中、先ほどまでいやらしいことをしていた匂いを感じさせないほど、部屋の中が明るくなったように感じた。
「ありがとうね」
僕は梨香の手を握った。梨香は立ち上がり、僕と手を繋いだまま横に座った。
「これで遅刻は許してくれるでしょ?」
少し拗ねたようなそぶりで梨香が言う。でも、その声はやっぱり明るくて、この雰囲気を嫌なものにさせない。
「許してないって言ったらどうするー?」
だから、また僕はそれに甘えてしまい、調子に乗って冗談を言ってしまう。