隔たりセックスコラム「セフレと恋人の境目<最終夜>」
隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。 |
「いやああぁあああ!!」
詩織は腰を浮かしながら、大きな叫び声を上げた。
喘ぎ声に聞こえなくもなかったが、あまりに大きな声だったので、思わず僕は詩織の腰を持っていた手を離した。
手から離れた詩織の腰は一度天に登るように反り、その後、糸が切れたようにベッドへと落ちた。その動きにモノが抜けそうになったが、かろうじて亀頭だけが詩織のアソコに入っている。
「ごめん。い、痛かった?」
不安になった僕は慌てて尋ねる。しかし、詩織は横を向き荒々しく呼吸をするだけで、何も答えない。表情も長い髪で隠れていてわからなかった。
目線を下にやると、詩織のお腹が膨らんだりへこんだりしている。どうやら勝手に動いているらしい。その動きによって、若干ではあるが亀頭が刺激されて、不安な僕の感情とは裏腹にモノは大きくなっていく。
「詩織、だ、大丈夫?」
たとえ大丈夫じゃなかったとしても、大丈夫じゃないなんて言えないよな。大丈夫と聞いてしまったことを後悔する。詩織は何が嫌だったのだろうか。急に自分に彼氏がいることを思い出してしまったのだろうか。
しかし、モノはもうすでに入ってしまっている。後には引けない。痛かったんだよな、ゆっくりやれば大丈夫だよな、と僕は自分に言い聞かせ、モノをゆっくりと中に押し込んでいった。
それでも、詩織は何も言葉を発しなかった。表情はいまだ見えない。
モノは再び、ゆっくりと中に入っていく。そうだ、少しだけ痛かったのだろう。それか、本当はもっと攻めて欲しくて、でも自分で「攻めて」というのは恥ずかしくて言えないから、「いや」と言ったのかもしれない。
そうか、その「いや」は僕が嫌だったわけではなく、今まで体感していない快感だったから、思わず口に出てしまっただけなのかもしれない。
セックスを続けて良いという理由を探しながら、僕は詩織の奥にモノを進めていく。モノ全てが詩織のアソコに包まれたとき、その暖かさにモノがまた膨張した。
「んんんっ!」
アソコの中でモノが大きくなったのがわかったのか、詩織はそう反応を見せた。これは感じているんだよな、と再び言いきかせる。
このまま腰を動かすと先ほどみたいに叫ばれてしまうと考えた僕は、モノを入れたまま少し静止した。詩織の裸体が目に入ってしまいモノがまた大きく膨らんでしまったが、詩織は「ん」と反応を見せただけで、さっきのように叫ぶことはなかった。
もうだいぶ馴染んだだろう。僕はゆっくりと腰を振り始める。やはり、腰を振ってこそセックスだ。互いを刺激し合ってこそ、セックスしているという感覚になれる。
だが、腰を動かした瞬間、詩織はまた声を上げた。今度は叫び声ではなかったが、痛みなのか快楽なのかわからないような声だった。
「むりいいぃぃ…」
どっちなのだろう、と迷う。感じすぎて、気持ちよすぎて「無理」なのか、それともセックスが「無理」なのか。詩織の本心を探ろうとも、どこにも答えが見当たらない。そしてモノがアソコに入ってしまっている以上、僕の思考はどうしても「気持ち良い」の方に都合よく動いてしまう。
「大丈夫?」
こっちはちゃんと心配したんだぞ、という、詩織がもし本当に痛がっていたことがわかった時に自分が傷つかないための予防線としての「大丈夫?」を口にしながら、僕はゆっくりとまた腰を動かし始めた。
詩織のアソコはものすごく狭い。ガシッと掴まれているような気分になる。アソコだけではなく、細い体の全体の力で掴まれているようだった。
この細い体に太いモノが入っている。その景色だけで興奮が止まらない。細い腕、首筋、鎖骨、柔らかに膨らんだ胸、くびれ、うっすらと浮かび上がった腹筋、スラッとのびた脚。詩織は横を向いたままだったが、モデルをしていても不思議ではないスタイルの女性と交わっているという状態は、僕の心を幸せにさせた。モノに直接伝わる快感よりも、そういったものが、僕の興奮を刺激する。
詩織が痛がらないようにと、ゆっくり腰を振る。すると、詩織の口から「あんっ」と喘ぎ声が漏れたような気がした。大丈夫だ。詩織はちゃんと気持ち良くなってくれている。
詩織の可愛い顔が、見たい。
「詩織、こっち見て」
そう言うと、詩織は髪の毛の間から、丸い瞳をこちらに向けた。その姿を見て、なんて美しいのだろうと思った。まるで芸術だ…。
そう浸っていた時、再び詩織の口から、僕を不安にさせるような言葉が、漏れた。
「いや…」
心がザワつき始める。その嫌はどっちの意味なんだ。教えてくれ。
「むりぃ…」
何が無理なのか、教えて欲しい。
否定の言葉のようだが、こちらを誘うような言葉にも聞こえてしまう。頭がぐちゃぐちゃになって、もう訳がわからない。もういいや、と僕は腰を振る。詩織は僕を望んでいる。望んでいる。望んでいる…。
「やめて…」
詩織は、僕を望んでいる。
「もう、むり」
彼氏とセックスレスなんだろ?
「だめ」
寂しいから、僕とホテルに来たんでしょ?
「もう、やめて」
本当はもっと、攻めて欲しいんだろ?
「長いぃ…」
長いって、まだ挿入したばかりじゃないか。
「おっきすぎてむり」
大きくて嬉しいだろ?
「早く」
そう。だんだん素直になって来たじゃないか。
「早く」
わかった。早く腰を振るね。
「むりぃい…早くして」
素直になったじゃないか、嬉しいぞ。
僕は早く、そして激しく腰を振った。幸せだった。快感だった。
そんな幸福は、たった一瞬だった。
「早くして! もうむり! おっきすぎ!」
詩織は叫んだ。
「早くイって!!!!」
幸福を感じれば感じるほど、絶望は深くなる。腰の動きを止めた瞬間、自分の意思に反して、僕はあっけなく射精した。
詩織は…気持ち良くなかったのか。
独りよがりにセックスをしてしまったという絶望と共に、生温い倦怠感がジワジワと広がっていく。
僕はゴムが外れないようにゆっくりとモノを抜いた。そして、ゴムを処理してゴミ箱に捨て、詩織の方を確認する。彼女はぐったりとベッドに寝転がった状態で動かなかった。
急激に「帰りたい」という苦しみが込み上げてくる。俺は何をしているんだろうという、わかりやすい賢者モードが襲いかかってきた。結局この感じか。どれだけ可愛い女の子を抱いたって、結局この感じか。クソ。求めていたもの、夢見ていたもの、望んでいたものがコレか。
付き合っていない女性とセックスし終わった後、僕はいつも賢者モードに襲われていた。自分はなぜ彼女ではない女性を抱いているのだろうか。そう思ってしまい、長期的なセフレ関係になる女性はたった一握りで、ほとんどの女性とは一夜限りの関係だった。
そういったセックスを繰り返し続け、やはり「恋人とのセックス」が一番幸せなのではないか、と僕は考えるようになった。
その考え通り、恋人とするセックスは幸せだった。お互いへの愛を伝え合っているようで、ものすごく満たされた。こんなセックスをたくさんしたい。そう思ったのだけれど、そんな気持ちを感じることができたのは最初だけで、気づけばどんどんセックスレスになっていった。
セックスの回数が減れば減るほど、どんどんセックスをしたいと思ってしまう。だからといって、臆病な僕は強引に彼女を襲うことはできなかった。
言葉で素直に誘ってみても、断られてしまうだけだった。何度か断られてしまうと、僕は自分という存在が拒絶されているのかもしれないと感じ始めていた。恋人に拒絶されてしまうことは、怖いし辛い。受け入れて欲しい、と思っているからこそ、余計に。
そんな寂しさが募り募って、僕は詩織と会った。詩織は僕のことを拒絶しなかった。挿入まではいかなかったが、受け入れてくれているという感覚があった。嬉しかった。詩織も僕と同じ気持ちなのだろうと思った。それは恋人との関係とは違うかもしれないが、少し似たような「理解し合えている」という感覚だった。
お互い恋人がいるという背徳感あふれたセックス。その相手の女性は、モデルのように見た目もスタイルも抜群。
想像しただけでイケてしまいそうな、興奮しかないシュチュエーション。詩織とセックスがしたい。詩織に触れるたび、唇を重ねるたび、その欲望は膨らんでいった。
こんな可愛い子とセックスができるなんて最高だと、夢見ていた。恋人とセックスレスだからこそ、余計に僕はセックスを渇望していた…けれど。
結局この感じか。ずっと求めていたもの、夢見ていたもの、渇望していたものがコレか。恋人じゃない女性とセックスした時、賢者モードに何度も襲われてきたじゃないか。なぜ、今回だけが例外だと思ったのか。バカみたいだ。
満たされていたのは「セックスができるかもしれない」と期待していた挿入手前までで、挿入後に喜んでいたのは僕のモノだけだった。ならば、ずっと挿入しなければいいのかもしれないが、挿入が出来るという状況を目の前にして、その欲望に抗うことは出来なかった。
たとえ挿入の先にあるのが絶望だとしても、その欲望には抗えない。僕はゴールに絶望があると知りながら、その絶望をより深くするためだけに用意された幸福の道を歩いただけだった。僕は何度、これを繰り返せば気が済むのだろうか。
ちゃんとセックスを楽しめる人が羨ましい。
幸福の道を歩き、その先のゴールに絶望がなく、絶頂という名の幸福があるセックスをできる人たちが羨ましい。
快楽だけに焦点を当てた、お互い欲望のままにセックスできる人たちが羨ましい。
僕はセックスをするときにいつも、心や、思考や、人間関係が絡んでしまう。だから、そういうものから解放されたセックスをできる人が本当に羨ましい。
羨ましいから、憧れてしまう。憧れてしまうから、なりたいと欲してしまう。欲してしまうから、セックスしてしまう。そして、いつもそのしがらみから解放されることなく、「結局この感じか」と絶望してしまう。
ベッドに寝転がっている女性の裸体。確かにスタイルが良くてキレイだ。でも今は、そこに人がいるだけだ、と思うだけで、それ以上もそれ以下も何も思えない。
僕はまだかろうじて残っていた優しさを絞り出し、詩織のお腹を撫でた。痛くしてごめんなさい、という謝罪、そして受け入れてくれてありがとう、という感謝を込めて。僕が絶望してしまうことに、詩織には何の罪もない。
「詩織、大丈夫?」
そう声をかけると、詩織はゆっくりと起き上がった。髪が乱れて、表情はぐったりとしていた。
「うん。大丈夫」
「ごめん、痛かった?」
「ちょっと」
「そっか。ごめんね」
「ううん。大丈夫」
ちょっと洗ってくるね、と言って、僕は浴室に入った。一緒に入ろう、とは言えなかった。
僕がモノを洗った後、入れ替わりで詩織も浴室に入った。詩織が出てくるのを待っている間、僕は服に着替えた。詩織は浴室から出ると、体をタオルで拭き、僕の目の前で着替え始めた。その詩織の姿はキレイだなと思ったが、僕のモノはズボンの中で下に垂れたままだった。
詩織が着替えてる姿をぼんやり眺めていると、さっき言われた言葉が頭の中を駆け巡った。無理、大きい、長い、早くして。ふと、詩織の彼氏は早漏で短小なのかなと思った。
詩織は「大きい」「長い」と言ったが、僕の感覚としては自分のモノは平均的な大きさであると思うし、まだ挿入したばかりという感覚で長いなんてこれっぽっちも思わなかった。
そんな僕のモノを「大きい」と思い、あのセックス時間を「長い」と思うなら、彼氏はどれほど早漏で、モノが小さいのだろう。少し勝ち誇った気分にもなるが、それにはなんの意味もない。
詩織は彼氏とのセックスが基準になっている。結果的に、彼氏のよりも大きく、長い時間セックスできたところで、詩織に喜んでもらえなかったら意味がない。小さいとか大きいとか、早いとか遅いとか、そんなものはただの要素にすぎず、それはそれぞれの好みの問題だ。
つまり、結果的に僕と詩織は相性が悪かったということになるのだろう。そしてタイミングも。
もし詩織がこれから彼氏以外の色々な男と出会い、様々なセックスを体験し、セックスに慣れた状態で僕と出会ってたとしたら、また違ったのかもしれない。詩織の彼氏のモノが大きくて、もっと遅かったのであれば、素直に僕とのセックスを楽しめていたのかもしれない。
けれども、僕らはセックスをしてしまった。それは裏を返せば、僕らがセックスをするには今しかなかった、とも言える。だから、しょうがない。巡り合わせが悪かった。
もう、僕は詩織とセックスすることはないだろう。
「ごめん、お待たせ」
私服姿の詩織。スタイルが良くて、おしゃれだ。こんな女性が街を歩いていたら、多くの男の視線は彼女にいくだろう。内容がどうであれ、僕はこの女性とセックスしたと思うと、不思議だった。
なぜなら、ほんの数分前までこの女性とキスをしていて、フェラをしてもらって、裸をみて、挿入したという実感はもうなかったから。
ホテルを出ると、外は暗かった。僕と詩織は無言のまま、新宿歌舞伎町のホテル街を出た。
新宿の街にはたくさんの人がいた。仕事終わりのこれから呑みにいくであろうサラリーマン、「仲間最高!」と顔に書いてあるような大学生の集団、そして仲良く手を繋いでいるカップルたち。
これからみんなは夜ご飯でも食べに行くのだろうか。仕事や学校終わりだからか、皆、表情が生き生きとしている。これを楽しみに今日一日頑張った、というように。
ホテルに入るまでの僕も、彼ら彼女らと同じような表情をしていたのだろうか。そして今、僕はどんな表情をしているのだろうか。
「ねぇ、詩織」
「なに?」
こちらを向いた詩織は、どこか疲れたような表情をしていた。
「…夜ご飯どうする?」
「…どっちでもいいかな」
「…そっか」
多分、僕も今、詩織と似たような表情をしているのだろう。これから詩織と夜ご飯を食べると想像してみても、新宿の街の人たちのようにワクワクとした気持ちになれなかった。もはや、何を話していいのかすらわからない。もう既に、僕にとっての今日の楽しみは終わってしまっているということだ。
「そしたら、帰ろっか」
「…うん」
これから新宿の街に繰り出す人々の流れに逆らうように、僕と詩織は新宿駅に向かった。すれ違う男たちのいくつもの視線が詩織を捉える。
「あ、やっぱり詩織って可愛いんだな」と改めて思ったが、その男たちに対しての勝ち誇ったような優越感も、詩織と夜ご飯を食べに行かなかったことに対する後悔も、全くなかった。
「それじゃあ、気をつけて」
新宿東口の改札前。詩織との待ち合わせ場所は、すべてここだった。もう、ここで詩織と待ち合わせすることはないだろう。
「うん。隔たりくんも気をつけて」
僕と詩織には恋人がいる。恋人がいる同士なのに、僕らは恋人に隠れてセックスをした。それは寂しさを共感しあえる関係だったからだ。
でも、僕らはもう気づいたはずだ。寂しさを他の異性で埋めたところで、現実は何も変わらない。僕らはもう、それぞれの場所に戻り、恋人と向き合わなければいけない。でないと、この寂しさはずっと消えることのないままだ。
「バイバイ、詩織」
またね、という言葉は嘘になる。だから、言わない。
「…バイバイ」
詩織も「またね」と言うことなく、改札の中に入っていった。人が多すぎて、詩織の姿はすぐに見えなくなった。
詩織とセックスをしてから約1ヶ月後、僕は付き合っていた彼女と別れた。別れが決まった時、因果応報だなと、笑いたくなった。
彼女に詩織との関係がバレていなくても、隠れてそういうことをしていたら、回り回って結果バチが当たる。二頭を追うものは一頭も得ず、ということわざがあるけれど、まさにその通りだなと思った。
恋人がいるからこそ感じる寂しさを埋めようとした結果、その恋人がいなくなった。新たに僕の中に生まれたのは、「恋人のいない寂しさ」だった。どれだけ寂しい人間なんだと、自分を嘲笑ってやりたくなった。
恋人がいないと、当然セックスの回数が減る。すると、無意識に過去のセックスを思い出すことが多くなる。セックスをしていない時に思い出される過去のセックスはたいてい美化されており、賢者モードを感じたことなんてまた都合よく忘れている。
賢者モードの時の気持ちを思い起こそうとするも、気づけばそれは、思い出してしまった下半身の気持ち良さによってかき消されいるのだ。だから、過去のセックスを思い出せば思い出すほど、賢者モードのことなど忘れ、またセックスをしたいという気持ちだけが膨らんでしまう。
そう、結局、僕はまた歩き出してしまうのだ。セックスができるかもしれないという希望に照らされた道を。そして、挿入へと続く幸福の道を。また性懲りもなく、歩いてしまうのだ。
たとえ、その先に絶望があるとわかっていても。恋人がいる寂しさ/おわり。
(文=隔たり)