イクミは都内の有名な私大医学部に通う2年生で医者の卵だという。地方の公立高校から現役で合格して上京してきたというから 、相当な頭の良さだ。言葉の端々から、優秀で賢いことがわかった。
そんな子がなんでパパ活をと思ったが、地方から東京に出てきて、学費の大半を親が出し、あとは大学から出る奨学金で何とかやりくりしているが、生活費は自分で稼がねばならないのに、勉強が忙しくてバイトがほとんどできず、食費にも困る有様だという。
成績が落ちると奨学金をもらえなくなるし、これ以上親には仕送りを頼めず、アルバイトと学業の両立が大変でくじけそうになっても、同級生は医者の子息が多くてお金の苦労をしていない友達も多く、相談できる人が周りにいなかったそうだ。
最初に格好が野暮ったいと感じたのも、おしゃれな服を買う余裕がないためで、渋谷や青山、六本木といった街には入学以来、遊びに行ったこともなく、女子大生という華やかなイメージとは無縁の生活をしているようだった。
せきを切ったように、イクミはいまの生活の苦労を話し続けた。私は大変だったねと同意したり、生活に関して簡単なアドバイスをしたり、頷いたりするくらいしかできなかったが、溜め込んでいたいろいろな思いを一気に吐き出して、イクミは少し気が楽になったようだ。
最初に会ったときはガチガチに緊張してこわばっていた表情がどんどん柔らかくなって笑顔が出始め、普通の二十歳の少女に戻っていた。
大学受験でがんばった経験や、初めて上京してマンションを借りた時の大変さや、毎日の生活費の高さなど、地方から出てきた誰もが通過する苦労をイクミは話してくれた。きっと誰かに話を聞いてもらいたかったのだろう。
私自身の経験などを話しながら慰めているうちに、すっかり下心もなくなり、なんだか父親のような気分になってきた。デザートを食べている時には「美味しい」と満面の笑顔を見せるので、嬉しくなってしまった。パパ活で身体の関係なしのパパになるのはこういう気分なのかなと思い始めていた。
楽しく話をして時間が過ぎ、店を出た。駅まで送って約束の交通費を渡して別れようと思い準備をする。
「大変だと思うけど、いま頑張った経験が将来きっと役に立つから、しっかりね。ご飯食べたくなったら、またいつでも声をかけてね」
渋谷駅に向かって雑踏の中を並んで歩き、こんなに頑張っているいい子だし、自分のポリシーを曲げて、時々食事をご馳走したりするパパみたいな関係でもいいかなあと考えていた時だ。
イクミが急に立ち止まって私の腕をつかんだのだ。
「どうしたの?」
「エッチありでいいので、お付き合いしてくれませんか」
イクミは真剣な表情で私を見る。
突然のことに私は戸惑った。
「えっ、でも大人の関係は嫌なんじゃないの?」
「最初はそうだったんですけど、たけしさんいい人だからまた会いたいし、エッチしてもいいかなあって」
「私はいいけど…」
「それにエッチをしてお小遣いをもらえたらアルバイトを減らして勉強する時間が取れるし、生活の足しにもなるし」
頭のいい子だ、チャッカリしている。
「うん、わかった。じゃあ今度会った時に、イクミちゃんの気が変わってなかったらエッチしようか。今日は約束通りちゃんと交通費を渡すよ」
「っていうか、次にいつ会えるか分からないので、いまからホテルに行きませんか?」
「えっ、いまから?」
私は面食らっていた。だが、時間はまだ早く、しかも渋谷のホテル街は目の前だ。
「もう決めましたから」
戸惑う私を急かすように、イクミはラブホテル街を目指して歩き出した。一軒のホテルに連れ立って入る時には、初めて会った時とはうって変わって私に腕を絡ませ、どの部屋を選ぶか楽しそうにはしゃいでいた。ラブホテルに入るのも新鮮だったようで、無理にはしゃいでいるんじゃないかと、私は逆に大丈夫なのかなあと心配になってしまった。