「私でいいなら一緒に行ってあげるよ」
「ホントに？ 嬉しい」
ハルが笑顔になった。
「でもハプバーに行きたいなんて、ハルさんも大胆だよねぇ」
お店に向かって歩きながら、私は言った。
「だってぇ欲求不満なんだもん。パリの生活って、みんなが思ってるよりも退屈なのよねぇ。日本に来た時くらい弾けたいわ」
「離婚の手続きは進んでないの？」
「向こうが弁護士を立ててきて、親権をどっちが持つかで裁判になってるの。あの男、子どもたちの面倒なんて見たこともないのに、親権は譲らないって強情で。頭にきちゃう」
「じゃあ、まだしばらく日本には帰ってこれないんだ」
「そうね、裁判が終わらないと」
「パリにもセフレがいたんじゃなかったっけ」
「いたけど、何回かやったら飽きちゃった。白人のオチンチンって大きくてもふにゃふにゃだったりするから、あまり気持ち良くないのよねぇ。オチンチンをしゃぶっていても、大きくなっても硬くならなかったりするし。挿れても全然感じないの。まるでナマコとかを掴んでるみたい」
「ナマコを掴んだことがないから、よくわからないなぁ」
「例えよ」
「でも日本人のは小さいから不満じゃないの』
「小さくても硬い方が好きかな。硬いオチンチンで奥まで突かれてるとイッちゃうの」
歌舞伎町の裏の花道通りを区役所通りの方に向かって歩き、途中でホテル街の方に曲がる。ギラギラとしたラブホテルを横目に、ハルはスマホの地図を見ながらすたすたと歩いて行き、東新宿の駅に近い雑居ビルに入っていった。前回私が行ったハプニングバーとは違う店だった。
「このビルみたい」
入り口の案内を見て、それらしき店名を見つけるとハルはエレベーターのボタンを押した。
「なんだか緊張するね」
「そうお？」
エレベーターに乗り込むと、私はハルをギュッと抱き寄せてキスをした。細身なハルの大きな胸が当たる。ハルが舌を伸ばしてきて、私の口の中に侵入してきた。
ディープキスをしようとする間もなく、エレベーターが店のある階に到着して扉が開いた。お店の扉をノックすると、中からスタッフの男性が顔を覗かせて、私たちを招き入れた。
以前行った店とは違って入り口に受付のカウンターがあり、私たちは身分証を提示するよう求められた。その後、私はハルの分も一緒に入会金と入店料を払った。スタッフが会員証を作ってくれて、お店の中の入るにあたっての会員規約と禁止事項を説明し、問題ないかを確認してきた。ハルと私が同意すると、お店の中を案内してくれた。
メインのフロアは赤系のランプで照明を暗めにしてあり、カウンターがあって少し高級なバーのような雰囲気だった。
そのカウンターのストゥールに下着姿の男女が何人か座っていた。フロアを囲むように半透明の薄いカーテンで閉ざされたコーナーがいくつもあり、複数のカップルが半裸でいちゃついているのがこちら側から見て取れた。
その他にもいくつか部屋があるようで、ハプニングが起きたときに移動するプレイルームも3部屋あると、案内してくれたスタッフが説明してくれた。
一通り説明が済むと、入り口近くのロッカーに荷物と携帯電話を預け、ハルはワンピース、私はシャツ姿でメインフロアに戻った。カップルと単独男性、女性同士など10人ほどの男女がいて、脇のカップルシートでは30代くらいのカップルがほとんどセックスしかけていた。メインフロアでは、下着姿の若い女性がソファに脚を大きく開きながら座り、床に座った年配の男性にクンニされていて、恍惚の表情を浮かべていた。
ハルはその光景を舐めるように見ながら、バーカウンターで飲み物を注文した。
「ねえ、プレイルームも見てみない？」
グラスを片手に、ハルと私は店の奥にあるプレイルームに向かった。
マジックミラーの向こう側の部屋が丸見えで、何人かの男性がガラスにかじりついて、部屋の中を覗き込んでいた。部屋の中には既に30代くらいのカップルが1組いて、マットの上で全裸で絡み合っていた。
「ねえ、入りましょうよ」
ハルが私の耳元で囁いた。
「もう？ いまお店に来たばかりだよ」
「だってぇ、したくなっちゃったんだもん」
ハルは火照ったような表情で私を見上げる。
「じゃあ、行こうか」
持っていたドリンクを飲み干してカウンターに戻すと、ハルの手を取って、プレイルームに向かった。部屋の入り口のスタッフがハルに部屋に入ることの確認をとると、タオルとコンドームが入った袋を渡し、「楽しんでくださいね」と目配せした。
奥にはシャワールームもあったが、ハルはよほど早く絡みたかったのか、部屋の脇でワンピースを脱ぎ出した。私も慌てて服を脱ぎ、部屋の片隅にまとめておいた。