「こんばんは、ハルさん。お久しぶり」
「お待たせしちゃってごめんなさいね。電車が遅れちゃったの」
相変わらずセクシーだ。長い髪をカールし、まつ毛はバッチリと伸ばし、真紅のルージュがひかれている。身体にぴったりしたグレーのニットのワンピースに派手なオレンジ色のジャケットを着て、小さなルイヴィトンのバッグを肩から下げていた。
30歳を少し越えていたはずだが、雰囲気は「愛人にしたい女性」としてブレイクしたタレントをはるかにエロくした感じだった。
ハルは遅れてきたのに悪びれず、私のコートの腕に手を置くと、にっこり微笑んだ。
「また会えてよかったわ。久しぶりですもんね」
妖艶な雰囲気のハルにドギマギしながら、私は言った。
「このあとどうする? まだ早いからお茶か食事でもする? それともホテルに行く?」
ハルは胸の前で腕を組んで、小首を傾げた。どうするかと考えているようだった。
「ちょっと行きたいところがあるんだけど、たけしさん、付き合ってくれる?」
「いいけど、どこに行きたいの?」
「どこでも付き合ってくれる?」
なんだか意味深な言い方だったので、ちょっと不安になった。
「いいけど…ホテルとか?」
「ううん、ホテルじゃないの」
ホテルでセックスしたいってわけじゃなかったんだ、とがっかりする。まあ、セックスなら他の女性ともしているから、今日はハルの行きたいところに付き合うっていうのもいいか。
「寒いからもう行かない? 変なところじゃなければ付き合うよ」
「変じゃないとは約束できないんだけど、たけしさん、今日お金持ってる?」
「えっ?」
なんだか嫌な予感がした。財布に2、3万くらいは入っていたと思うが、どこに行くのか分からないし、いくら必要なのか明確でないと付いて行きにくい。
だが、前回初めて会った時は激しくセックスをして楽しい時間を過ごせたので、ハルがそんなに悪い女性とは思えなかった。それにだまそうとしているなら、こんな言い方はしないだろう。
「せっかく会ったんだから、まずホテルに行かない? そのあとでよければハルさんの行きたいところに付き合うよ」
あわよくば先にセックスに持ち込んで、ハルの用事はスキップしてしまおうと目論んで言ってみる。
「ホテルに行ったら、エッチしちゃうでしょ」
「まあ、そうだねぇ」
「ホテルでエッチしちゃったら、もったいないから」
「もったいないって? 今日はセックスしないの?」
「するよ。もっと刺激的なところに一緒に行かない?」
「どこに行きたいの?」
いつも率直でサバサバしたハルが、モジモジしながら恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「一緒にハプバーに行ってほしいの」
「ハプバー?」
「うん」
前回会った時、ハルは一人で渋谷のハプニングバーに行ったと話していた。私自身は付き合わなかったので詳しいことはわからないが、後から聞いた話では面白いハプニングは起こらなくて不満だったと言っていた。
「ハプバーに行きたいの?」
「うん。他の人も誘ってみたんだけど、周りに人がいたら落ち着いてエッチできないから嫌だって断られちゃったの」
「他のセフレ?」
「うん」
他人に見られながらだと勃たない男もいるが、私は以前、女子大生とその愛人パパと一緒にハプニングバーに行ったことがあった(※)ので、周りに人がいてもそんなに気にせずセックスできることはわかっていた。
※『パパのいる女子大生と5P 〜パパに誘われハプニングバーへ〜』
そのことは黙っておいて、さもハプニングバーなど行ったことがないという感じを装う。
「ハプバーって、いろいろエッチなハプニングが起きたりするんでしょ。3Pとか4Pになったりするかもしれないんだよね」
「うん」
「人に見られながらエッチしたりするのは大丈夫?」
「うん、やってみたい」
「複数でした経験ってあるの?」
「あるよ。パリでセフレとその友達とかで」
「えー、すごいねぇ」
正直驚いたが、ハルは性に対して探究心が旺盛なので、何を経験していてもおかしくはない。
「でも、日本のハプバーみたいな乱交は経験したことない」
「乱交したいんだ」
「うん」
「この前はそんなハプニングは起きなかったんだ」
「前に行った時は、もうハプニングが終わっちゃってて、みんな疲れてまったりしてたし、一人遅れてきたおじさんが誘ってきたけど好みじゃないから断っちゃった。ほかに誰も誘ってこないから、お酒だけ飲んで帰ってきちゃったの」
「そうなんだ」
「だから今日は早い時間に行けば、何か面白いことが起きるかなあって思って」
それで夕方5時という早い時間を指定してきたのか。だがハルが遅れてきたせいで、もう5時半を過ぎていた。