隔たりセックスコラム「挿入手前までの関係:後編」
隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。 |
目が覚めると、頭に鈍い痛みが走った。
脳を締め付けるようなギンギンとした痛みに、体を起き上がらせることができない。その痛みが治るまでうずくまっていようと体勢を変えると、今度は吐き気に襲われた。目を強くつむり、その痛みを忘れるようにと、再び眠りにつく。
しばらくして、再び目が覚めた。頭痛と吐き気は先ほどよりかは治まっているものの、身体中がだるくて起き上がれない。カーテンの隙間から生ぬるい光が差し込んでいる。今は何時だろうか。僕は枕元に置いてある携帯を手に取り、電源を入れる。
「え」
目をこすって、もう一度時間を確認する。当たり前だが、そこに書いてある時間は変わらない。
「16時!?」
身体中に「後悔」という感情が広がっていく。心を痛めるネガティブな感情と、体を痛める頭痛と吐き気が混じり合い、涙があふれそうになった。
「最悪だ…」
僕は急いでラインのアプリを起動する。通知をオフにしているので、どんなメッセージがきているかをホーム画面で把握することはできない。つまり、アプリを開かないと誰からラインがきているのかわからないのだ。
ラインのアイコンの右上に赤色で表示されるメッセージの受信数は「2」となっていた。思ったより少ない数字にホッとするも、それでは解決になっていない。アプリが起動されると「真央」の名前が一番上にあった。真央からの受信メッセージ数は「2」と表示されていた。
「何時につく?」
真央の名前の下に書いてあるその文章を見て、少し安心する。ビドイ言葉はきていなさそうだ。ホッとした気持ちで、真央の名前をタップする。
「着いたよ~」
「何時につく?」
今日、僕は真央と16時に会う約束をしていた。16時に合流して向かう場所は、ラブホテルだった。
僕は急いで真央にラインをする。
「真央、返信遅れてごめん。急に体調が悪くなっちゃって…。だからまた今度でもいいかな? 本当にごめん」
僕の家から待ち合わせ場所に行くには、1時間以上かかる。いくらセックスができるといえ、真央を1時間以上待たせるのは申し訳ない。
そして何より、本当に体調が悪い。昨日たくさんお酒を飲んだことを後悔する。二日酔いでセックスのチャンスを逃すなんて、昨日の自分を恨みたくなった。
「あ、そうなんだ。じゃあ、私帰るね。お大事に」
「もっと早く言ってよ」とか「嘘つき」とか言われるのを覚悟していたが、真央からの返信はあっさりしたものだった。それが余計に怖いというのもあるのだが。
もう会えないかもしれない。
真央と公園でキスした時のことを思い出す。僕のモノを自ら触ってきた真央は、どんな風に手コキをするのだろうか。大胆に絡めてきた舌でモノをどのように舐めるのか。それを味わえたはずなのに、ただの二日酔いで逃してしまったことを後悔する。
とはいえ、真央を味わいたいという性欲以上に身体のダルさがすごい。妄想しても、性欲は全然湧いてこない。もういいやと投げやりになりながら、その日は布団の中で1日を過ごした。
真央とのラブホの約束に寝坊した1週間後、真央から1通のラインが届いた。
それまでに2通ほど「こないだはごめん」という謝罪と、「次いつ会えるかな?」というラインは送っていたのだが、真央から返信はきてなかった。1週間も経ったし、もう真央には会えないだろう。そう諦め掛けていた時にきたので、僕はテンションが上がり、すぐに真央のラインを開いた。
「明日なら会えるよ」
僕は急いで明日の予定を確認する。運がいいことに、明日は何も予定が入っていなかった。
「真央返信ありがとう。明日は何も予定ないよ。会いたいな」
失ったはずのセックスが蘇るかもしれない。何度も妄想した真央の体に触れることができるかもしれない。そんな期待に胸が踊る。
「じゃあ、こないだと一緒の場所で、一緒の時間で」
僕は真央に「了解!」と返信した後、すぐに今日の夜に会う約束をしていた友達にラインを送った。
「ごめん。今日体調悪くなったから、行けないや。また今度飲みに行こう」
もう二日酔いでセックスを逃すのは嫌だ。
その日、僕は高校生の時ぶりに、22時に寝たのだった。
待ち合わせの駅の改札を出ると、駅内の大きな柱にもたれかかっている真央を見つけた。真央は相変わらず目が細くて、遠くから見ると寝ているようにも見える。
僕はゆっくりと真央のいる方へと歩く。近づいても真央の方は全く気付いたそぶりを見せない。本当に寝ているのかもしれないと思うとおかしくなって、僕は早歩きで近づき真央に声をかけた。
「ごめん、お待たせ」
「あ、隔たり」
「けっこう待った?」
「そんなにだよ」
真央の返事は何だかそっけなかった。僕が声をかけるまで本当に寝ていたのかもしれない。
今日の真央は白のワンピースを着ていた。初めて二人でデートしたときの赤のワンピース姿の時と、ガラッと雰囲気が変わっている。とても清楚な雰囲気を醸し出していた。
「とりあえず、この間はごめん」
僕は1週間前に二日酔いでドタキャンしたことを謝罪する。もちろん理由は言わないけれど。
「ぜんぜん大丈夫だよ」
そう言う真央の声色は暗かった。怒っているのかもしれない。僕は改めて、何度も謝罪する。
「ぜんぜん大丈夫だって」
真央は目を細めて笑った。
「じゃあ行こうか」
歩き出す真央の後ろをついていく。真央が先週ドタキャンした件についてどう思っているかわからないが、この後はセックスをする予定のはずだ。だから少しでもいい雰囲気にしておきたい。僕は前を歩く真央の手を、後ろからさりげなく握った。
すると、真央は何も言わずに僕の手を受け入れた。真央の手は温かい。手のひらから伝わる体温だけではなく、真央の身体中の体温に触れたいと、股間が少し反応する。
「あのね」
不意に真央がそう口にした。思わずそちらを振り向くと、真央は下を向いていた。
「今日ホテルに行くんだよね?」
真央は言葉を地面に落とすように、そう呟く。
「うん。そういうつもりで来たけど」
「行き先…変えていい?」
「え、どこに行くの?」
「それはね」
真央は下に向けていた目線を上げて、しっかりと正面を見た。僕の方は向かなかった。自分の中で何か覚悟を決めたような表情だ。
「私の家にしたいんだけど、いいかな?」
え、と思わず声が漏れる。行き先を変えていいと言われ、今日はセックスできないのかと諦めるところだった。むしろ家なら大歓迎だ。真央の家がどんななのか興味があるし、何よりホテル代を払わなくてセックスができる。
僕は真央の細い目に目線をあわす。真央はこちらを見ないで正面を見たままだったけれど、僕は微笑みながら声を明るくして言った。
「もちろん大丈夫だよ。真央の家に行けるなんて嬉しい」
その言葉に真央はこくりと頷き、一瞬僕の方をチラリと見たあと、再び目線を前に戻した。僕の方を見ないから少し怒っているのかなと思ったが、もしかしたら恥ずかしいのかもしれない。怒っていたら家に行こうなんて言わないはずだ。そう思うと、なんだか可愛らしいなと思えてきた。
真央の家は想像以上に狭かった。ベッドが部屋の半分を埋め尽くしている。ベッドのない半分のスペースはテレビと机が占めており、部屋の中を歩く動線が狭かった。そのベッドと机の間にあるわずかな空間に僕は座り、真央はベッドに腰掛けた。
「狭くてごめんね」
「ぜんぜん大丈夫だよ。むしろ家に上がらせてくれてありがとうだよ」
「それなら良かった。ホテルはなんか…」
真央はそう言って黙った。何か言葉を探しているようだった。
「なんかって?」
「…ううん。なんでもない。ホテルよりも家がいいなと思っただけ」
真央がなぜホテルから家に変えたのか。二人きりの密室ということは変わらないし、むしろ家の方が場所を知られてしまうというリスクがある。ホテルから家に変えるメリットは、お金がかからないという面しか思いつかない。真央は今、お金に困っているのだろうか。色々と想像したけれど、これといった答えは出なかった。
とはいえ、いま僕は真央と密室で二人きりだ。真央の理由がどうあれ、セックスするという状況が消えたわけではない。
「横座っていい?」
「…いいよ」
僕は床から腰を上げて、真央の横に座った。手を真央の手に重ねる。指を手の甲の方から真央の指の間へと差し込む。目線を上げると、真央と目が合った。目が細いから、キスを欲しがるようなトロンとした表情のようにも見える。そのまま無言の時が少し流れた。ゆっくりと顔を近づけると、真央の目線が僕の唇へと移動する。僕は顔を少し斜めに傾けて、斜め下から突き上げるように、真央の唇に自分の唇を重ねた。
「はんむっ」
上唇を口に挟むと、真央も僕の下唇を柔らかな唇で挟んだ。互いに舌で唇をなぞっていく。濃厚な大人のリップの味がした。塗られた口紅を食べるように舐めていく。舐めている舌同士が触れると、そのまま淫らに絡まり始めた。
真央の舌はザラザラしている。そして唾液の量も多い。なので、舌を絡ませるのが気持ち良い。ザラザラとした感触と、口の中に流れくる唾液の温かさに、胸がふわっとする。まるで、ずぶ濡れのマンコに挿入したような気分だ。
「あっ、ハァ、あっ、ハァ」
気持ち良すぎて、思わず声が漏れてしまう。キスしかしてないのに、体全身を攻められているような気分だ。興奮が増してくる。一生このキスを続けていたいとさえ思ってしまった。
すると、真央の手が僕の股間に触れた。僕はもうキスで興奮しているので、モノはすでに硬くなっている。ズボンの圧力に反発するように膨らんだモノを、真央は優しく撫で始めた。公園でキスをした日のことを思い出す。あの時も、真央の方からモノを触ってくれた。
セックスを知ってからずっと、エッチが好きな女の子と出会いたいと思っていた。最初にセックスをした女の子たちは受け身な子が多く、セックスをしているというよりも「ただ僕が体を触らせていただいているだけ」という感覚が強かった。こちらからお願いしなければ、僕の体を触ってくれることはなかった。行為が一方通行だったのだ。
だから僕は、女の子の方から何も言わずにモノを触ってくれる日を待っていた。自分からモノを触ってしまう、それが僕にとってのエッチな女の子という基準だった。互いに求め合って、初めて本当の「セックス」ができる、そう思っていたのだ。
真央は慣れた手つきで僕のモノを撫でる。そしてズボンのジッパーを下ろし、手を中へと忍び込ませた。これは本物だ。真央はモノを欲しがっている。真央は本当にエッチな子なんだ。
真央の手はどんどん中へと忍び込んでくる。下着の上から撫でられると思ったが、真央の手の動きは僕の想像を超えていた。
なんとすぐに下着の中に忍び込み、直接モノに触れたのだ。そこから早く出してと言わんばかりに、少し強引に、真央はモノを外へと引っ張り出した。
硬くなったモノが、スボンのジッパーの間からニュキニュキと生えている。服を着ているのにモノが出ているという光景は違和感でしかなく、けれどそのエロい違和感によって、より気持ちが高ぶっていく。
「触りたかったの?」
唇を離してそう聞くと、真央は何も言わずに僕の目をじっと見た。
「直接、触りたかったの?」
真央はこくりと頷く。
「おちんちん好きなの?」
真央が目線をモノへと向ける。
「好き?」
真央は親指と人差し指だけでモノの根元の皮を上下させている。
「好きなの?」
「…好き」
真央の方から触ってくれたことが嬉しくて、真央がエッチな女の子なのが嬉しくて、真央の口から直接「おちんちんが好き」と聞きたくなってしまう。
「何が好き?」
エッチな女の子に出会えるのは嬉しい。
「…おちんちん」
女の子の口から「おちんちんが好き」という言葉を聞くのはもっと嬉しいし、もっと興奮する。
僕は「おちんちん」といった真央の唇を自分の唇で塞いだ。そして、舌を口の中へと侵入させる。卑猥な唾液が溜まった空間の中で、僕の舌は真央の舌と淫らに絡まりあった。エッチな女の子の唾液は美味しい。エッチな女の子の舌の動きはゾクゾクする。
舐めて欲しい。その舌でモノを舐めて欲しい。真央の手にしごかれているモノはどんどん硬くなっていく。
この唾液量でフェラをされたら、いったいどのような気持ちよさを味わえるのだろうか。
想像だけで先端から我慢汁が溢れ出そうになった。想像だけでイキそうになってしまう。もう、早くしゃぶられたい。
舌を真央の口の中から取り出す。僕の舌と真央の舌の間に、卑猥な液体がツーっと糸を引いていた。その糸を僕と真央は互いに眺める。そして同時に目線を上げ、目を合わせた。同じ行動。心が通い合っているようで嬉しい。次に望んでいることも、同じであると願わずにはいられない。
僕は目線を一度、モノへと移した。そして再び真央の目を見る。真央は何も言わずにこくりとうなずいて、ベッドの下へと降りた。
「ありがとう」
僕はそう呟く。それに対しての真央の返答はない。それでいいのだ。もう、望みが同じとわかっているから。
真央は僕の足の間に入った。そしてズボンのボタンを外し、両手でズボンと下着を同時に降ろした。解放されたモノはしっかりと上に向かって勃っている。
天に突き上げるように勃ったモノに、真央の後頭部が被される。後頭部、竿、後頭部、竿という景色が繰り返される。竿が見えるたび、そこは唾液でテカっていく。規則正しい上下運動に、僕はただ見とれてしまう。
ねっとりと唾液がモノに絡まり、ザラザラとしたした舌が亀頭を刺激する。口をすぼめながら、真央は根元まで咥えたり、そのまま舌を動かしたりとモノ全体を刺激した。真央の口の中でモノはどんどん硬くなる。そして硬くなるにつれ、刺激にも敏感になっていく。真央は休憩することなく、早くイカせたいというばかりに、激しくしゃぶり続けた。
「真央、こっち向いて」
「ん?」
「真央、もう我慢できない」
僕は真央の肩に手を置いて、そっと口を離させた。唾液で濡れたモノは少し右に傾きながらも、しっかりと勃っている。まるで、何千年も生え続けている大木みたいだ。早くこれを、真央の中に入れたい。
「エッチしよ?」
僕がそう声をかけると、真央は下を向いた。そして一言だけ、消えてしまいそうなほどのか弱い声で、こう呟いた。
「エッチは、しない」
え、という力のない声が口から漏れた。真央はモノを持ちながら下を向いている。エッチを断られたはずなのに、モノをしっかりと持たれているという光景が、真央の言った言葉の意味をわからなくさせていた。
「え、エッチしないの?」
真央は頷く。こんなにフェラをしてくれたのに、エッチができないなんてどういうことだろうか。
「フェラは大丈夫だけど、エッチはダメなの?」
状況がわからなさすぎて、ストレートに真央に聞く。フェラは大丈夫なのにセックスはダメ。その間の境界線、真央の基準がわからない。
「エッチは、しない」
真央は先ほどと同じ言葉を再び口にした。今度は力強く、そしてゆっくりと。真央の意志の強さを感じる。
「え、胸を触るのはいいんだよね?」
僕はしゃがんでいる真央の胸に手を伸ばす。真央は動くことなく、無言のまま、僕に胸を触らせた。そして再び、モノをしごき始める。
僕は胸を揉んでいる。真央は手コキをしている。そんな状況が無言のまま流れた。しかし、真央はセックスをするつもりがないらしい。これから先に進むことは本当にできないのだろうか。
「真央」
僕はベッドを降りて、真央の横に座った。そしてキスをする。舌をすぐに絡ませて、両手で胸を揉んだ。体をくねらせて興奮していることを演出する。もっともっとエロい雰囲気になれば、真央を興奮させれば、セックスができるかもしれない。真央の心に火をつけようと、僕は愛撫を繰り出す。
真央の股間、つまりマンコを触ろうとした、その時だった。
「ダメ!!!!!!!」
急に真央が大きな声をあげた。その声は狭い部屋を反響し、僕の鼓膜を刺激した。唐突な大声に、心臓の鼓動が激しくなる。
「ご、ごめん」
マンコに触れることをここまで拒絶されるとは思わなかった。マンコだけではなく、何か別の、真央の触れてはいけない部分に触れてしまったのだろうか。
僕はマンコを触ろうとした手をそっと引っ込めた。真央は体を縮こませて両手で股を抑えている。その体は少し震えていた。
「ご、ごめん。真央、大丈夫?」
僕はどうしたらいいかわからなかった。僕が真央を傷つけてしまったのだろうか。自己嫌悪が身体中に広がっていく。真央の手から解放された先ほどまでは天に登るほど突き上がっていたモノは、だらんと下に垂れていた。
「ここは…ダメなの」
真央は泣きそうな表情で、そう声を絞り出す。
「もう傷つくのは嫌なの…」
僕はなんと答えていいかわからず、ただ真央の横に座っていた。勇気を出して背中を撫でようとしたが、怖くてできない。そのまま少し時が流れた。
「大好きな人がいたんだけど…」
何もできずに横に座っていると、真央がそう口を開いた。
「その人とはセフレみたいな関係で…」
真央は泣きそうになりながら、声を震わせて話し始めた。僕はとっさに真央の背中を手で撫でた。
真央はその僕の行為に対して何も言うことなく、言葉を連ねていく。
「それがずっと、しんどかったの」
「うん」
僕は真央の言葉に相槌を打つことしかできない。
「私は付き合いたかったのに」
「うん」
「セフレにしかなれなかった」
「うん」
「もうあんな思いはしたくないの」
「うん」
「だからごめんなさい…」
その時、真央の頬にすうっと水滴が一粒流れた。その水滴がポトリと、アソコを抑えていた真央の手の上に落ちる。
「本当は先週、1回だけエッチしてサヨウナラをしようと思ったの」
「うん」
「でも、来なかった」
「うん」
「今日は家で普通にお話しするつもりだったの」
「うん」
「こう感じになっちゃったんだけど…」
「うん」
「やっぱりエッチは、できない」
それならば、もし僕が今「付き合おう」と言ったらセックスができるのだろうか。では、なぜ付き合っていないのにフェラをしてくれたのだろうか。そんな疑問が頭の中に生まれるも、僕はそれを口にしなかった。いや、口にしたくなかった。なぜなら、目の前で女性が涙を流しているから。泣いている女性を、僕はもうどうこうしたいとは思えない。
「うん、わかったよ。ごめんね、触ろうとして」
もう真央とエッチをすることはできない。それならばこの家にもう用はない。この家に来たのは真央とエッチをするという目的があったからだ。エッチを目的として来たのにエッチができないという状況の中で、新たな目的に切り替えるのは難しい。
僕はもう帰ろうと、床に脱ぎ散らかされた自分のズボンを手に取った。すると、いきなり真央が僕のモノをパクリと咥えた。
「えっ」
真央は小さくなったモノをチューチューと吸う。モノは真央の口の中でみるみる大きくなった。
突然のフェラに戸惑っていると、真央がモノから口を離した。そして小さくならないようにしっかりと手コキを続けながら、上目遣いで言った。
「エッチはできないから、フェラで許してほしい」
真央は再びモノを咥え、激しくしゃぶり始めた。
ジュボジュボと唾液とモノが交わる音がする。真央の口からも唾液が溢れており、僕のモノを濡らしていた。唾液の生温かさに包まれながら、快感の波が徐々に襲ってくる。フェラで許してほしい、と真央は言った。こんなに気持ち良いフェラをやられてエッチをすることができないなんて、拷問のようだなと思った。
エッチができないのならば、もう射精を我慢する必要はない。もう出そう。
「ごめん、もうイク」
真央は口の中で受け止めてくれるのか。エッチができないのならばせめて「中」で出す感覚だけ味わいたい。そんな欲望が膨らみ期待していたけれど、真央はモノから口を離した。
やっぱり口の中はダメか。仕方ない。
しかし、真央は僕の想像を超えた、不思議なことを口にした。
「射精するとこ見たい」
「えっ」
「出る瞬間って直接見たことないから、見ていい?」
真央は細い目で僕を見つめた。「見ていい?」と聞きながら、真央の手の動きは早くなっていく。見る気満々じゃないか。真央は僕の言葉を待たずに、さらに手の動きを早める。
「出そう?」
真央の顔はもう好奇心に満ち溢れていた。これから絶景を見に行くような、ワクワクとした表情だった。
射精する瞬間を見られるのは特に理由はないけれど、なんだか恥ずかしい。滑稽だからだろうか。見せたいと1ミリも思っていないけど、真央が手コキをやめる気配はない。
もうどうにでもなれ。エッチはできないのだから。
そう投げやりになった瞬間、快楽が一気に絶頂を迎えた。精巣でうごめいていた白い生命たちが一気に管を駆け上がり、大量の液体となって外に放出された。
「うわっ、すごい…」
最初の精子は真上に飛び出し、ちょうど真央の手首あたりに落ちた。残りの精子たちは勢いよく飛び出ることなく、まるでチョコフォンデュの機械から流れ出るチョコレートのように、上からドクドクと溢れ出た。その液体は頬をつたう涙のように流れ、モノを握っている真央の手に落ちた。
「あったかい…」
ビクビクと溢れ出る精液を、真央はキラキラとした目で見つめていた。
不思議なことに、僕自身もモノから溢れ出る精液から目が離せなかった。用を足す時のような精子の出方は何度も見たことあるが、真上に発射するのを見るは初めてだった。モノのてっぺんから溢れ、根元まで流れ、真央の手に落ちる精液の軌道は、なぜだか美しいとすら感じた。
「なんかすごかったね」
「うん、すごい。初めて見た」
真央は机の上に置いてあるティッシュ箱からティッシュを3枚とり、自分の手についた精液を拭いた。そしてモノに垂れている精液も拭いたあと、一度だけモノを根元まで咥え、舌を一回転させた。さらに口をすぼめながら亀頭の方まで登ると、「んぱっ」と口を離した。
真央の一度だけのお掃除フェラが、満足そうな顔が、今日の終わりを告げていた。
「そしたら…帰るね」
僕は下着とズボンを履く。モノは下着の中ですでに萎んでいた。
荷物を持って部屋を出ようと、玄関で靴を履く。
「駅までの帰り道わかる?」
靴を履いている僕の後頭部から、真央の声が降ってきた。その言葉で、真央が僕にもう会う気がないことを悟る。
「大丈夫だよ。俺、けっこう道覚えるの得意だからさ」
僕は立ち上がり、笑って真央に微笑んだ。真央の目は細くて、笑っているのか真顔なのかわからない。
「それなら良かった」
迷子になったら連絡はするかもね、と僕は笑い扉に手をかける。もうこの家には来ることはない。それはいいのだが、真央とのキスやフェラをしてもらうことができなくなるというのは、寂しい。
「真央」
僕は振り返って、一度だけ真央に口づけをした。ほとんどのキスで真央の方から舌を差し入れてくれたけど、この最後のキスに真央の唇が動くことはなかった。
「じゃあ、またね」
僕は扉を開けて家を出た。後ろを振り向くと、扉を閉める真央の姿があった。
真央は舞台のフィナーレでカーテンが閉まっていくときのように、腰くらいの位置で扉が閉まり切るまで軽く手を振ってくれていた。その姿を見て、もう真央には会えないけれどそれでいい、と思った。もう会わないかもしれないけど、社交辞令かもしれないけれど、手を振ってくれたことで「今日は真央にとっても楽しい1日であったはずだ」と信じることができるから。
エッチはできないけど、フェラをしてくれた真央。
僕はフェラの延長にセックスがあると思っている。むしろ、フェラという行為はセックスの中に組み込まれている。だから、フェラができるのであればセックスもできるだろうという考えになる。
しかし、真央は違った。真央にとってセックスすることと、フェラをすることは別だった。おそらく、真央にとってセックスとは心を通わせる行為なのだ。だから真央は自分の心を傷つけないために、僕がアソコを触ることを拒んだのだろう。
そして、真央にとってモノをしゃぶるという行為は単なる好奇心なのかもしれない。自分にはないから、不思議な存在だから。そんな思いがあったから、フェラをしてくれたのだと思う。
僕は真央とセックスで繋がることはできなかった。つまり心を通わすことはできなかった。
けれど、射精の瞬間をまじまじ見るという時間を一緒に共有したのは真央しかいない。もしかしたら今後、真央以外でその瞬間を共有する人はもう二度と現れないんじゃないかとも思う。挿入にはたどり着かない短い関係だったけど、真央という存在は確実に僕の中に色濃く残る気がした。
家に帰るために、駅へと向かって歩いていく。射精してからまだ数分しか経ってないので、ズボンの中のモノはジンジンとしていた。
またいつか、心を通わせれるような人に出会えるのだろうか。
彼女と別れたばかりの僕。そして大好きな人にセフレ扱いされた真央。
空を見上げる。夜を迎えた真っ暗な空には雲ひとつなかった。その空の中心に、まん丸の綺麗な満月が光っている。
月が綺麗ですね。
早く僕にも真央にも心を通わせれるような人が現れますようにと、その満月を眺めながら祈ったのだった。
(文=隔たり)
やや右に曲がりながらも、天に突き上げるようにまっすぐ勃ったモノに、女性の後頭部が被さる。後頭部、モノ、後頭部、モノ。そんな景色が、女性の頭が上下するたびに繰り返される。何度も後頭部が被されていくと、現れたモノはだんだんと女性の唾液でテカり始めていた。その規則正しい上下運動に、僕はただ見とれている。