「ここだったんですねぇ。いままでまったく気が付きませんでしたよ」
「ちょっと離れてますしね~。でも、何度かご自宅近くを通りがかったときにお見かけしましたよ」
「えっ!? そうだったんですか? 声かけてくださればよかったのに」
「なんだか忙しそうだったので迷惑かな?と思って」
槇原さんはそう言って、はにかむような笑顔を見せた。本当にこの人は可愛らしさと美しさが共存されているなぁと実感するしかなかった。
そうして、ご自宅へと招かれ中に入る。広いリビングルームには大きなソファがあった。
「あっ、そこのソファで楽にしていてください。いま、お茶出しますので」
槇原さんがコーヒーを用意してくれている間、部屋の中をざっと見渡す。シンプルながら整った室内は、彼女のセンスの良さを感じさせるものだった。
「簡単ですけど、どうぞ」
とてもいい香りのするコーヒーだ。
「いただきます!」
大変美味しい。
「すごく美味しいです! やっぱり美人が淹れてくれるコーヒーは格別ですね」
「なにをおっしゃるんですか~。大したことないですよ。でも、うれしいな」
そんな他愛のない会話をしていると、槇原さんが並ぶように座ってきた。
「ふぅー。私も一息」
槇原さんはコーヒーを一口飲むと、こう言った。
「最近、主人が海外に長期出張してるんです。なので一人で寂しくて…。呼び出すようですみません」
どうやら旦那さんは海外での大きなプロジェクトに参加することになり、長期留守にすることが急に決まったようだ。
「いえいえ、ちょうど在宅ワークが増えていて時間も自由なのでいつでも呼んでください」
「ほんとですか!? 毎日呼んじゃうかも」
槇原さんが肩を寄せるようにこちらに近づいてくる。そして、耳元でこう言った。
「もう2カ月もしてなくて…。どうしていいかわからないぐらいなの…」
薄々期待してはいたが、いざそう言われるとドキドキするものだ。