由里子さんが「2名」と告げると、マスターは「あぁ、昨日のお客さんも」とカウンターの端の席を用意してくれた。
「昨日はありがとうございました。久々にお酒の話ができるお客様でこちらも楽しかったですよ」
「いえいえ、こちらこそおいしいお酒をありがとうございました。明日帰るので最後にと思いまして」
「連日きていただいたのでこれはサービスです。私の好きな銘柄なんですよ」
マスターはウイスキーのロックをサービスしてくれた。
そのウイスキーを飲みながら、由里子さんと他愛もない話をした。マスターもたまに話に入りながら、あっという間に時間がすぎた。
「さて、そろそろまいりましょか」
と由里子さんに話しかけ、マスターにチェックをお願いする。しかし、私が化粧室へ行っている間に、由里子さんが支払いを済ませてくれていたらしい。
「えっ? それは申し訳ない。払いますよ」
「いえいえ、色々とお話聞いてもらったのでお礼です」
それ以上言うのも野暮なので、「ごちそうさまでした」とお礼をする。バーを出て、二人で夜の温泉街を歩いた。
「さて…。では、さっきの支払い分、払ってもらいしょうかね?」
突然、由里子さんがにっこりと微笑みながらこちらに話しかけてきた。
「えっ? どういうことですか?」
「私、実家の旅館で働いているんですが、家は別で一人暮らしなんですよ。ちょっと寄っていきませんか?」
支払いを済ませてくれていた意味が分かった。
断る理由もないので、由里子さんに導かれるように道をすすみ、 繁華街から少し離れたマンションに到着。温泉街の雰囲気とはまるで違う、都会的なマンションだった。
「とりあえずそちらに座ってください。なにか用意しますよ」
部屋に入ると、由里子さんは台所へと向かった。
ソファに座り、とても広いリビングを見渡す。シンプルで整頓されたオシャレな部屋で、なんだかドキドキしてしまう。台所にいる由里子さんの後ろ姿を見ると、なぜかムラムラとしてきた。お昼にたっぷりと味わった彼女の身体の感触を、少し思い出した。
そうしていると、由里子さんがおつまみとウイスキーをロックで用意してくれた。そして、ソファの隣へ。
「では、乾杯」
由里子さんはいつも一人で寂しく飲んでいるらしい。そんなことを話しながら飲んでいると、彼女がもたれかかってきた。