完全に男性と思い込んでいたので、何が起こっているのか分からず混乱した。集合場所にいるロングヘアーといえば、さっき目についた美人さんぐらい。
「もしかして、Aさんって女性ですか?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ? そうですよ!」
こんなことがあるのだろうか。思い切ってその美人さんに話しかけてみた。
「あの…失礼ですが、Aさんでしょうか?」
「あっ、はい。そうです。Aです」
「すみません。すっかり男性だと思いこんでいて」
「いえいえ、ゲームではナンパとか嫌なので男性アイコンにしてるんです」
「そうなんですね~。しかし、こうやって会うって怖くなかったんですか?」
「基本ないんですけど、お酒のお話すごい興味が湧いたので。まぁ、来た人があまりに怪しかったら 逃げてましたね(笑)」
目的のお店に着き、馴染みにバーテンダーに席を用意してもらう。カウンターの一番奥に二人で座った。
「うわぁ。こういうお店ほんと初めてで。どうしたらいいですか?」
「大丈夫ですよ。甘いのとかすっぱいのとか好みを言えば、なにか作ってくれますから」
バーテンダーが話しかけてくれたので、まずは甘めのロングカクテルをオーダーをした。軽やかなシェーカーの音がした後に、オレンジ色のキレイなカクテルが運ばれてきた。
「うわぁ。キレイ~」
「氷が溶けちゃうまえに飲んじゃうのがいいですよ」
Aさんはゴクゴクとカクテルを飲んだ。
「とっても美味しい。もっと色々飲みたいです!」
その後、様々なカクテルを飲みながら、ゲームや普段のことを話した。Aさんは自営業でデザイナーをしているとのこと。部屋での一人作業が多いので、ゲームで暇つぶしをしていたようだ。
しばし飲んだあと、Aさんがこう言った。
「私、カラオケも好きなんですけど、一人だとあまりいけないのでご一緒してもらえます?」
個室で二人きりになれるお誘いを断る理由もないので、いいですよと答えた。近くにあったカラオケ店に入店し、Aさんはすぐに曲を入力して歌い始めた。よほど来たかったのだろう。とても歌がうまく、すっかり聞き入ってしまった。
3曲一気に歌い上げるとAさんが隣に座ってきた。
「ごめんなさいね。ほんとこういう機会がなくて私ばっかり楽しんじゃって」
不意に頬に唇の感触が。驚いてAさんの顔を見る。
「お酒も入って、こうやって楽しい気分になると…そんな気分にならない?」
Aさんは持っていたマイクを机におくと、こちらのビンビンになっているマイクのようなアレを手のひらでスリスリとこすり始めた。
「でもここじゃまずいわね。場所変えませんか?」