その日、編集部を出たのは夜の10時。まっ、初めて行くスナックでそんなに長居してもあれなんで、顔出し程度に小1時間飲んで帰ろうと思ってたんです。ところが、ちょっと遅めの時間帯だったことが、おもろい展開に結びついたのです。
(おっ、ここか。いやぁ、場末感満載だねぇ)
アケミの働くスナックは、寂れた商店街の、さらに裏路地にひっそりと佇む系の小さなお店。
「すみませーん」
と少しだけ扉を開けて中を覗くと、ママらしき和服姿のお婆ちゃんがお爺ちゃん客を接客中でした。
「いらっしゃい。あら、ご新規?」
「えぇ、アケミさんはいらっしゃいますか?」
「あら、アケミちゃんのお客様なのね、アケミちゃーん」
ママが店の奥に向かって声をかけると、洗い物をしているらしいアケミが顔を覗かせました。
「あらー、ホントに来てくれたのぉ、うれしいわー」
ホステスらしい白のスーツを着た彼女が、満面の笑みでお出迎え。
「ささ、座って。焼酎でいい?」
「あっ、じゃあ水割りで」
なんて感じで飲み始めたんです。
「よかったわー、今日は暇で暇で。はい、カンパーイ」
そこからは、彼女の息子がアニメ好きで生身の女に興味がなさそうだの、飼ってる猫がアパートの壁をひっかきまくって困るだの、内容のない(そこがいいんですけどね)スナックトークでそこそこ楽しく過ごさせていただいたんですが…。
11時半くらいでしょうか。お爺ちゃん客がお帰りってとき、
「アケミちゃん、私も上がるから、後片付けお願いしちゃっていいかしら」
と、ママがアケミに言ったんです。
「オッケー、戸締まりしとくわ。ママ、気をつけて、おやすみー」
店に残ったのは僕とアケミのふたりきりって状態になったんです。すると…。
「この前、ホントにありがとね。久々に女に戻った気がして嬉しかったのよ」
ママを見送って戻ってきたアケミがカラダを密着させるように隣に座り、それまでと違って色っぽい目つきをしながらそう言ったんです。