じっとりとした暑さが続く7月上旬。私は愛を連れて個室居酒屋に来ていた。
本番を武器にランキングに食い込もうとしている彼女と、最初の面接以来一度も話していなかったからだ。
「お疲れ様。最近よく頑張ってるみたいだね」
「…ありがとうございます。でも店長、怒ってるんですよね?」
暗い表情で、こちらの様子をうかがう素振りを見せる愛。
おそらく、本番をしていたことがバレて、なにか罰を食らうとでも思っているのだろう。
「あぁ、本番のことかな? 別に怒ってないよ(笑)」
「そう…なんですか?」
「うん。まあ、知ってしまった以上は“これからは控えてね”としか言いようがないけど」
「はい、すみません…」
「でも大丈夫。愛ちゃんの努力は認めてるよ。だからこそランキングに食い込みそうなわけだからね」
それまで暗い顔だった愛は、ランキングという言葉に敏感に反応した。
「ランキングに入れば、これからもっと稼げるようになりますか?」
「えっ? まぁ、新規のお客様は今よりも増えるだろうね」
「だったら私、もっと頑張ります」
瞳の中に聖火を灯すがごとく、彼女は強い眼差しで私を見つめた。
「っていうか、たしか愛ちゃんって、借金返済のために入店したんだよね?」
「そうです。旦那が今36歳で一回り違うんですけど、事業が失敗しちゃって…」
「それで、とにかくたくさん稼いで返済に充てたいって言ってたよね」
「はい。だから、少しでも早くたくさん稼いで借金を返して、卒業したいんです」