まりとの食事は、いつも使う個室の居酒屋にした。
まりは“お酒大好き”といった雰囲気はなかったが、バッチリ一杯目は生中で合わせてきた。
「どうしてあんなに焦ってたの(笑)?」
声を掛けた時、やたらと目を泳がせていたことを突いてみた。
「いやぁ…怒られるんじゃないかと思って…」
「怒られる…ってどうして?」
そう聞き返すと、彼女はビールを一口飲み、喉を潤して口を開いた。
「私、このお店で店長やスタッフさんにいろいろプロデュースしてもらったおかげで、これまでいたどのお店よりお客さんがついてるんです。
でも、それに対して全然本指名が返せてなくて…。お店に貢献できてないから、さすがにそろそろ怒られるのかと…」
なるほど。彼女も指名が返せていないことに頭を悩ませていたのか…。
私はまりの頭をポンと軽く叩き、
「そんなに深刻に悩まなくていいよ。まりちゃんが十分頑張ってくれてるのは知ってるから。
ここ最近忙しくて、まりちゃんに接客の指導とか悩みの相談に乗ってあげられなかったのも原因だしね」
と、彼女をフォローした。すると、彼女はプルプルと震えながら目に涙を浮かべた。
「えっ!? ちょっっと、なんで泣いてるの!?」
「だって、店長がそんなに心配してくれてたなんて知らなかったからぁ…」
こいつは酒が入ると泣き上戸になるのか(笑)。
面倒くさいと思う心を抑え込み、まりをなだめる。
ようやく泣き止んだかと思うと、彼女は意外なことを口にした。
「店長! 私、やっぱり講習を受けたいです。今からでも受けれますか?」
いきなりすぎるお願いに一瞬キョトンとしてしまったが、すぐに我に返る。
「別に大丈夫だけど、どうして?」
「なんか講習って、責任者が女の子と良い思いをしたいからやってるってイメージがあったんですけど、店長ならそんなことないって信じられるので…」
いや、ごめんなさい。全力で私利私欲です。と、正直に話すわけにもいかないので、
「ありがとう、そう言ってもらえると店長としてすごく誇らしいよ」
と、社交辞令のように返した。
まりは瞳をキラキラさせながら
「それじゃあ、さっそく行きましょう! ホテル!」
と、個室とはいえ周りに聞こえるような大きな声を上げた。