私たちが入ったカラオケは、通常よりも個室と料理が豪華なタイプの店だった。
カラオケセットがあることを除けば、十分デートにも使えそうな雰囲気だ。
「最近のカラオケってすごいね。こんな感じなんだ」
「小鉄くんはあんまりカラオケって来ないの?」
「学生時代はよく行ってたんだけどね。働き始めてからは全然」
「なら、今日はいっぱい歌わないとね」
ニッと歯を見せながら笑うソラ。
うん! やっぱり可愛いわ、この子。
この個室には、嬉しい誤算があった。
座る場所が、3人掛け程度のソファーひとつだけだったのだ。
おかげで、カップルのように並んで座り、文字通り距離が近い状態になった。
「小鉄くんとこうして座ってると、付き合ってるみたい(笑)」
「あはは。ソラちゃんみたいな可愛い子と付き合えたら嬉しいね」
冗談交じりにそんな会話を続けながら、運ばれてくる料理や酒を楽しむ。
そして、ある程度腹ごしらえが済んだあたりで、交互に歌った。
…
……
「いやーソラちゃん、めちゃめちゃ歌上手いね!」
「本当ですかぁ? えへへ、嬉しいなぁ」
ぽや~っとした表情で嬉しそうに笑うソラ。
アルコールがまわってきたのか、若干呂律が怪しい。
「ソラちゃん大丈夫? 酔った?」
ここでスッと華奢な肩を抱き寄せた。
特に抵抗もなく、私の胸元に頭を預けるソラ。
視線を落とすと、上目遣いでこちらをじっと見つめていた。
目と目があったまま、妙な沈黙が周りの空気を包んでいく。
キラキラと光るグロスに吸い込まれるように、私は彼女と唇を重ねた。