その駅前からマンション手コキ屋に電話する。
「ハイ、◯◯クラブです」
ハキハキした高い声で、留守電の自動音声のようにも思える。ひょっとしてアンドロイドなのかもしれない。驚きのあまり言葉に詰まっていると、電話の中から声が聞こえた。
「モシモシ!」
声の主は、自動音声やアンドロイドではなく、本物の人間だったようだ。
「あの、ネットで見て遊びに行きたいんですけど、どうすればいいでしょう?」
「ルールや料金の説明はもう読まれましたか? 本日はいくらかかるか、おわかりになりますか?」
風俗店に電話してこんな受け答えされたのは初めてだ。
「えっと、初回なんで60分だと1万2000円だと思うんですけど…」
「ハイ、そのとおりです。場所は日暮里になりますので、駅前のマクドナルド辺りから、またお電話してください…」
「今ちょうどそのマクドナルドの前にいるんですけど」
たまたま、そこから電話していたのだ。
「そこからですと、上にモノレールの線路と駅があって、30メートルくらい先に信号があるのがわかりますか?」
「わかります」
「信号の向こう側に銀行があるんですが、何銀行か言ってください」
おいおい、客にそこまで確認させるのかよ。銀行の看板が見えるところまで歩き、銀行名を言う。見上げた空からはポツポツと大粒の雨が落ちてきた。
「え~と、○○銀行です」
「そうです。その銀行の向かいにももう一軒銀行があるんですけど、その銀行は何銀行ですか?」
自動音声風の声の主は、異常なほどに注意深く、店が入っているマンションまでの道案内をするのだ。
「路地を進むと○◯があるので、そこで立ち止まってまた電話してください」
おいおい、これって身代金の受け渡しかよ。でも、なんだか面白くなってきたぞ。
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