「太田ブロードウェイ」と呼ばれるのは、太田駅前から直線に伸びる「南一番街」のこと。車道の幅より広い歩道の両側に飲食店が並んでいるが、その中に点々とおっぱいパブが存在するのがいかにも“北関東の性都”らしいところではある。
面白くなるのは、歩道が狭くなる交差点から先だ。歩道には多数の客引きがたむろし、楽しげな夜の店へと誘惑の声を投げかけてくる。その集中砲火をかいくぐり、脇の路地へと逃げ込むと、そこにはかつて裏風俗街だった胡散臭さが今でも漂っているのだった。
筆者のその夜の目的は、日本人の一発屋だった。裏路地を歩いていると、立て続けにふたりの客引きが声をかけてきたが、両方とも中国エステだった。
「日本人の店探してるんだよ」
そう言うと、コートを着た中国人客引きは言った。
「太田(の一発屋)ハ ジェンブ中国人ヨ。日本人ヤ韓国人言ッテモ、ジェンブ中国人ヨ」
悔し紛れにでまかせを言ったのだと思ったが、後であんなことになるとは、その時は予想だにしなかった。
裏路地からコンビニ前に差し掛かった時、ひとりの男が声をかけてきた。韓国人の男が言うには、自分の店にはふたり日本人がいると言う。
(ホラ、いるじゃん)
男が店に電話をしている時、筆者は満足そうに微笑んだ。しかし、
「ゴメンナサイ、今日ハふたりとも休ミデス」
なんだよ~! ため息をついて再び歩き始めた時、女の手が筆者の腕を掴んだ。
「日本人イマスヨ」
顔を上げると、今のやり取りを聞いていた中国エステの女客引きが、店にひとりだけ日本人がいると言うのだ。しかし、怪しすぎる。
「んなわけねーだろ、ボケ」
いつもならそう言って手を振り払うところだが、その夜、筆者はネタが坊主だったのだ。
「ホントに日本人? もし違かったら、お姉さんも入って3Pだよ」
「イイヨ」
「ひょっとしたら」という思いで、ロングヘアーを後頭部でまとめた、少し美人な中国女の後に付いて店に向かうと、女がカギを開けたのは、アパート風の集合店鋪の裏口だった。
非常階段みたいな階段を上がると、そこにエステの待合室があった。
カギのかかったドアの奥にある中国エステなんて、ヤバい匂いしかしない。
幸い、現金のほかに貴重品は持っておらず、筆者は、運を天に任せることにした。
残る問題は、本当に日本人か否かである。
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足つぼの表などが貼られた待合室で10分ほど待たされ、案内された薄暗い部屋で待っていたのは、果たして、中華系のアラサーだった。
「あれ、お姉さん、日本人?」
「ワタシ、日本ト台湾ノハーフデスヨ」
…そう来たか。
どっから見てもピュア中華系人妻の、どこに日本人のDNAが混じっているというのか?
コート姿の中国人客引きの言葉は正しかった。今度はこっちが悔し紛れに、自称ハーフの中華妻に、ガンガン腰を打ち付ける番となった。
性都・太田の夜は、化かし合いで更けていく。
(写真・文=松本雷太)