今回の取材は、新人キャストの入店に合わせてのスケジュールを組んでもらい、実際にその講習の様子を見せてもらうことができた。条件は、絶対に新人の女のコの顔を写さないこと、テクニックに関する描写は一切しないことだった。
平田さんの仕事はテクニックを教えるだけではない。講習は、相手をよく知るために、まずは平田さん流のカウンセリングから始まった。
「大切なのは、不安を取り除くことですから。だから、単刀直入に心配していることを最初に話してもらうんです。もっとも時間をかけるのが、この作業かもしれません。女のコの疑問ひとつひとつに丁寧に答えるよう心がけてします。分かってもらうことが一番の近道ですから」
平田さんがそう考えるようになったのは、自分がキャストとして働き始めたころ、 “一番してほしかったこと”がまさにこれだったからだ。
そして、彼女が新人の女のコに必ず聞くことがある。それが、風俗で働く目的だ。
「やはり、“とりあえず”や“なんとなく”という理由で入って来た女のコは長続きしないと思います。それでも、最近のいわゆる平成生まれのコは、ほんわかしたかんじのコが多くて、つかみどころがないというか…。まぁ、ギリギリ昭和生まれの自分が言うのもなんですけど(苦笑)」
女性が風俗で働く理由はさまざまだが、そのひとつに、ホストクラブ通いなどによる借金があるとも聞くが…。
「もちろん、いますよ。ルネッサンスさんではないですけど、ホストクラブで借金を作ったのに、さらにホストにつぎ込んでしまうコとか。そういうコには(つぎ込むことを)やめろとは言いません。逆にムキになってしまうから。なんとなく、やんわりと『コスメを買ったりして、自分のために使えば、より魅力的になって相手も振り向くんじゃない?』みたいな感じで注意しています」
平田さんがもうひとつ触れないようにしていることがある。それは、教える女のコの容姿のことだ。まず、容姿よりもテクニックが大切であること。そして、目的を持っている女のコは自然に自分を磨く術を身に着けていくからだという。
「だけど、女性らしさだけは絶対に忘れないようにと教えますね。ニュアンス的な感じになりますけど、“お客様の前では女でいなさい”って。これは師匠であり前任者の講師にも言われたことです」
こういった話をした後、続いて実践講習となる。最近の風俗店の新人講習のやり方は、大まかにわけて3つある。
まず、男性スタッフを使っての体験講習。これは、未経験の女性にとって抵抗が大きく、敬遠されがちなシステムだ。続いて、店でのプレイの流れをDVDなどの動画を観て覚えるもの。簡単そうに思われがちだが、細かな、そして重要なポイントなどが伝わりづらい面もあり、女のコだけではなく店全体のレベルが下がることになりかねない。
もうひとつが、ディルド(ペニスの形をした張形)を使って男性の感じる部分などを教えるスタイルだ。『ルネッサンス』は、このやり方を導入していて、平田さんもディルドを手に新人の女のコにレクチャーしている。
「お店のプレイ用の個室の壁に鏡がついているから、ふたりで横に並んで映しながらポイントを教えていきます。フェラでの舐め方とか、素股での指の使い方ですね。もちろん、手だけではなく、腰の使い方とか…これ以上は企業秘密なので教えられませんが(笑)」
実際に講習の現場を目の前にすると、ディルドを手にし、時には舐め、手コキのような指付きをしてても、そこにエロさはなかった。ここは技術を教えるための現場だということが、よく理解できた。そして、平田さんの想いも。
「やはり、ひとりでも多くのコに稼げるようになってほしいという想いがあります。自分が教えた女のコの成績が上がったと店長さんから聞くと、それだけで嬉しくなるし、このお仕事のやりがいを強く感じる瞬間でもあります。いずれは、私自身がそうだったように、次を任せられる女のコが現れてくれたら嬉しいですね。それが今の私の目標なんです」
そう遠くない未来、彼女の教え子が次の世代を教える日がやってくるだろう。平田さんの丁寧な指導と静かで熱い想い。こうして、老舗の技術は脈々と伝承されていくのだと実感させられた。
(文=子門仁)
取材協力:ファッションヘルス『ルネッサンス』
http://www.renaissance.ne.jp/