【緊張の待ち合わせ】
ぼくはどちらかというと臆病なタイプだ。
本当は身分証やカード、携帯電話など、個人情報が割れそうなものはすべて家に置いていきたかった。
でも、それでは待ち合わせに困る。裸の現金をポケットにねじ込み、どうしても必要な携帯だけやむなく持って待ち合わせ場所に向かった。
駅の改札を出たあたりで、心拍数が上がっていることに気が付いた。
この綺麗な女性かな?
あっちのおばはんだったらきついなー。
カップルや待ち合わせ風の女性を食い入るように見つめ、思いをめぐらせた。
待ち合わせする時の緊張感は、回数を重ねてもなくならなかった。個人的には、合コンの待ち合わせのそれを100倍くらいにした感じ。
Hさんから電話が入る。
「今駅に着いたので向かいます。階段の下にいて下さい」
階段をゆっくり降りてきたのは、40代くらいの中年男性と30代後半くらいの綺麗な女性だった。
すぐにそれと分かったが、向こうから電話が来るのを待った。
もう一度電話が入り、確実に彼らが主催者だと分かったところで近づいていった。
「こんにちは。JOJOです」
「こんにちは! 今日は参加してもらってありがとうございます」
事前に話したときの印象通り、彼は丁寧な紳士だった。見た目はお世辞にも良いとは言えないが…。
彼女(Sさん)は、わざわざ大阪から東京にいるHさんに会いに来ているらしい。
深くは聞いていないが、夫婦ではない様子だ。
しかし、わざわざ大阪から来てる彼女を他人に抱かせるなんて、このおっさんマジで鬼畜だな…。
世の中にはいろんな形の愛がある。
ぼくの他にもふたりの男性が呼ばれていた。1人は30代後半、もう1人は確か40歳くらいだったと記憶している。
女性の年齢が少し高めだったため、男性の年齢も高めの設定だった様子。
挨拶もそこそこに、東京の下町にある居酒屋までタクシーで移動した。