世間ではそろそろ、中学や高校では春の修学旅行のシーズンである。旅行先でつい羽目をはずしてしまい、楽しいはずの旅行に水を差すような出来事も少なくないことだろう。時には、傷害事件とか集団万引きとか、笑えない事件になってしまうこともある。
そこで、戦前に起きた事件をひとつ。
大正9年(1920)5月13日のこと。修学旅行で名古屋に滞在していた甲府中学(現・県立甲府第一高校)4年生が、集団で遊郭遊びをしていたことが判明した。
名古屋の遊郭といえば、日本でも最大級、江戸・東京の吉原よりも大きかったという中村遊郭が有名だ。しかし、中村遊郭が成立したのは、大正12年のこと。この事件のころは、移転する前の旭遊郭が名古屋市内ではメジャーな遊郭だった。現在の大須と堀川の間あたりに明治9年に開設されたと資料にある。
集団で、ということらしいが、別に大勢でぞろぞろと登楼したというわけでもないだろう。旧制中学というと、現在の高校くらいである。一人で堂々と遊郭に出向くほどの度胸はなかったのだろう。それが、誰かが「行ってみようか」などと言い出せば、同意する者も出てきてもおかしくはない。最初は数名で、こっそり出かけていったと思われる。それを見て、「よし、俺たちも」という具合に、やはり何人かが誘い合って後に続いたという具合だったのではなかろうか。若い男の考えることは、だいたい似たようなものである。