翌年の2月13日、東京地裁は元巡査に懲役2年の判決を言い渡した。
このような、容疑者として拘引したり、任意同行させたりした女性に対して、警官が性的な関係をもつ、あるいは強要するという事件や不祥事は現在に至るまで後を絶たない。
明治9年には東京で万引きの疑いで警察署に拘引された16歳の少女が、取り調べと称して署内で全裸にされたために驚いて逃げ出すという事件が起きているし、明治13年には滋賀県で大津署の巡査が窃盗容疑で拘留中の女性と拘置所内で性的関係を行っていたことが発覚し、免職ならびに禁獄70日の刑に処せられた。
そして、この事件とほぼ同時期の大正6年12月、神奈川県警の32歳の巡査部長が強姦未遂で逮捕され、横浜地裁が懲役2年、被害者に対して損害賠償50円の支払いを命じる判決を言い渡している。
こうした警察官による、わいせつ事件やレイプ犯罪は、表ざたになることは極めて少ない。この38歳巡査による事件でも、被害者の看護師が勇気を出して告発したからこそ発覚したのである。
警察官が加害者になった場合の多くは、恐怖から泣き寝入りするケースが少なくない。この事件でも、看護師以外は裁判に加わることはなかった。たとえ懲戒免職になったとしても、警察官に歯向かったとなれば「何をされるかわからない」という状況だったことは明らかである。
そして、そういう状況は、現在でも変わっていない。警察による「身内の犯罪隠し」や「かばい体質」、あるいは市民への恫喝体質によって、警察官による犯罪や不祥事は、発覚するのは氷山の一角である。
(文=橋本玉泉)