エルミタの連れ出しバーへ行く前、「腹が減っては戦ができぬ」とホテルのレストランで食事をしていた時のこと。背後の席から、日本人同士と思われる男女の会話が聞こえてきた。
どうやら、中年の会社役員とその愛人のようだった。明日からセブ島でバカンスを楽しむのだそうだ。普段であれば不愉快になってもおかしくないところだが、数十分後にシーラと再会して熱い夜を過ごすのだと滾っていた私にとっては、ただの雑音でしかなかった。
しかし、彼女との再会は、この直後に思いがけないカタチで訪れることになった。
食事を終えて席を立ち、背後の席を見ると、そこにシーラの姿があった。そう、よどみのない日本語を話していた女性こそがシーラだったのだ!
お相手の男との会話に夢中で、シーラは私に気付いていなかった。だから、私も気付かないフリをして、その場を去った。そして、悲しい男のサガで、連れ出しバーに向かった。
バーに向かう途中、あんなにたどたどしかったシーラの日本語が、わずか半年で完璧なアクセントになっていたことが気になった。「生きるために必死に覚えた」と思えば、彼女の成長が嬉しかった。多少の強がりであっても、あの日本人に幸せにしてもらえばいい…そう思った。
この出来事を、その夜の相手になった女性に話した。彼女は半年前に、猛烈に「社長!」と私にアピールしてきた女のコだった。すると、「アンタ、バカよ! シーラは日本で育って、7カ月前まで日本に住んでいて、日本の男と付き合ってたのよ。日本語ペラペラで、むしろ、タガログが話せない」と一括された。
つまり、私はまんまと騙されたということだ。それ以来、海外でたどたどしい日本語を話す女性を警戒するようになったのは言うまでもない。
(文=美田三太)
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