当初、男は失業中の手持ち無沙汰からさほど気乗りしないまま関係を続けていたらしい。ところが、女性の多額の資産があることを知った男は、積極的に女性と会うようになる。その度に、しつこく金品をねだっていた。女性は求められるまま、現金を手渡していたようだ。
その結果、1年の間に女性の資産はすっかり底をつき、しかも700円の借金までできてしまう有様だった。
現金が目的で女性と付き合っていた男にとって、もはや女性に用はなかった。男は、手のひらを返すように女性を避けるようになる。
だが、女性のほうは納得しない。老後のための貯金も使い果たし、借金までして貢いだ男である。彼女のほうはますますしつこく、交際を、そしてセックスを要求するようになっていった。
男はしばらくは関係を続けていた。だが、女性の要求はあまりにしつこかったらしい。ついに男は音を上げた。そして、女性の殺害を決めたのである。
そうとは知らない女性は、「東京見物に行きたい」などと男を誘ってきた。男としては、犯行にうってつけの機会であった。二つ返事で承諾すると、2人で東京へと向かった。
そして、東京での観光の最中の6月22日夕方7時頃、人気のない路地で男は女性を背後から首を絞めて殺害。遺体を道端の草むらに放置して逃走した。
だが、2人が利用したそば店の従業員の証言などがきっかけで身元が判明。男は犯行から10日ほど経った7月2日に岩手県の自宅にいるところを逮捕された。
この事件を報じた新聞記事には、「老婆の蛇の如き執念の恋に煩悶した若きつばめ」の犯行と表現している。
はたして、金目当てといっても妻子もちの男が殺人を犯すほどの動機はあったのか。やはり、女性の「痴情」が引き金となったのか。
これから日本も高齢化が社会問題となることは確実である。中高年や高齢者のセックスの問題も、もっと真剣に考えていかなくてはならないのではなかろうか。
(文=橋本玉泉)