翌日、現地での仕事を終えた私は、サカタ氏の誘いを断って、昨夜のボアッチへ足を運んだ。店に入った瞬間、ミズキちゃんが近寄ってきて交渉もせずに交渉成立。ふたたび私の宿泊先へと向かう途中で、昨夜は見せなかった少し真剣な表情で、「今日はお願いがあります」と言ってきた。
部屋に入るなり、ミズキちゃんは激しいキスを迫ってきたが、私は先ほどの表情が気になり、情事の最中も、どこか集中できなかった。もちろん、爆乳を揺らしての騎乗位ファックは気持良く、満足のいくフィニッシュを迎えた。
この後も昨夜同様に2度目の…と思いきや、ミズキちゃんが、また少し真剣な表情をして、まっすぐな視線で私に“お願い”を切り出した。顔がほぼ日本人だが、言葉はカタコト。窓の外にはサンパウロの夜の街が広がっていて、なんだか不思議なシチュエーションである。自分が映画やドラマのワンシーンに放りこまれた気分だ。
ミズキちゃんは、封筒を差し出しながら「これを渡してほしい」と、いきなり言ってきた。主語もなく、突然そのようなことを言われても、当然のことながら戸惑うしかない。ポルトガル語とカタコトの日本語と英語で説明された内容はこうだった。
曽祖父夫婦にあたる人が20世紀初頭にブラジルに移住してきたというミズキちゃんの家系。「私は曾祖母にソックリだそうです。ミズキは曾祖母の名前なの(笑)」とのことで、彼女の父は25年前に日本の大学に留学経験があるらしい。
「そのときに東京のA区に住んでいたのですが…」
その区の名前を聞いて驚いた。偶然にも当時、私が住んでいた地域だからだ。お互いに裸でシーツにくるまった状態で、その名前を聞くとは…やはり、世界は狭いのか。
そんな私の思いに気づくはずもなく、ミズキちゃんは続けた。その話をまとめると、彼女の父親が困っていたときに知り合ったA区在住の日本人男性が、お金を貸してくれたので返してきてほしいという。封筒にはそれが入っているのだろう。
まず、私がその区に住んでいることを告げると、「ミラーグリ!(Milagre=ポルトガル語で奇跡)」と連呼しながら抱きつき、キスをしてきた。
たしかに奇跡だ。しかし、そのお金を貸してくれた人は『ナカモトタダシ』という名前であることと、A区在住しかヒントはない。それでも、「今日のお金はいらないし、もしも返すことができたら…今度はノースキンでいいよ!」と言い出した。
私は帰国後、A区役所へ足を運び、事情を説明した。もちろん、ボアッチで知り合った云々は省いたが、当然のことながら取り合ってもらえず…。
冷静になってみれば、私は、なぜここまで必死にナカモトさんを探しているのか? それはミズキちゃんとの生挿入のために違いないが、この時点で再びブラジルを訪れる予定はなかったし、そもそも彼女の連絡先も聞いていない。それほどミズキちゃんを好きになっていたからこそ、ここまで本気になったのだ。自分でも無鉄砲だと思うしかない。
それでも、異国の地で女のコと知り合い、ここまで強い思いを抱いてしまうのも、旅の醍醐味なのではないか? 恋愛感情は地球規模になることもあるのだ。
(文=美田三太)