そして、見た目に物珍しいため、香具師つまり見世物などを仕切る連中からのアプローチが絶えることがなかったことには、本当に困り果てた。どこからかうわさを聞きつけて、「ぜひともお願いしたい」などと、次から次へとそうした連中がやってくる。
今年になって大阪に出かけたときには、「100円出そう」「200円でどうか」などと、金額を提示して迫るほどだった。当時の100円といえば、現在の価値で言うと150万円から200万円くらいにはなるかなりの大金だ。
こうした誘いに、さすがに男性も嫌気がさし、ついに切除手術を受けることを決意した。記事によれば、手術は成功。予後の経過も順調と伝えている。
ちなみに、睾丸膨張症という病名は、医学書などには見当たらない。おそらく、記者が適当につけたものではないかと思われる。
睾丸や陰のうが肥大する症状としては、水腫やフィラリア症などいくつか考えられる。この男性の場合、火傷を負っても気がつかなかったというから、寄生虫によるフィラリア症、別名、像皮病ではないかと推測できるが、詳細は不明である。
それにしても、こうした報道が新聞に掲載されるとは、明治時代ならではであろう。しかも、ごていねいにイラストまで掲載されている。
(文=橋本玉泉)