恐い? 何かをしたつもりもないし、紳士的に接してきたハズである。「なぜ?」と聞くと、「警察の取り締まりが厳しくて…」とイーリンは話し始めた。彼女は、この『香港141』に来る前は、かつて悪の要塞とまで呼ばれたスラム街・九龍城にあった売春宿にいたという。
噂には聞いていたが、あの要塞の中には、イーリンいわく「数え切れないほどの売春宿があった」とのこと。彼女は「もちろん、違法よ。だけど、内部があまりにも複雑だったし、アンタッチャブルなことがあって警察も取り締まれなかったの。だけど、空港の建設に合わせて九龍城が取り壊されることになった」と続けた。
その九龍城で仕事ができなくなった売春婦たちが、『香港141』に流れてきたそうで、イーリンもそのうちのひとりになる。そしてどうやら、先ほどの用心棒とイーリンは以前からカップルらしく、だからこそ稼がせるために私に彼女を紹介したようだった。
ここからはフェイ君に教えてもらったのだが、九龍城がなくなったことでアンタッチャブルな部分が崩れ、香港の売春宿は警察の取り締まりを受けるようになったという。そのため、ときどき見せしめのために警察が『香港141』を摘発することがあるそうだ。そして、訪れた時期は、まさにそのタイミングだったのである。
それでも『香港141』は一応、合法風俗ということになっている。それを取り締まるというのも不思議だが、フェイ君は「そういう場所ってことです」とサラリと言い、しかも「だから安いんです!」と、いけしゃあしゃあと言ってきた。もしも本当に警察が来たら異国で逮捕という憂き目に遭っていた可能性もあったと考えると、怒りと呆れた気持ちが芽生えた。
事実、その『香港141』は我々が訪れた3日後に、日本でいうところのガサ入れがあったという。それを聞いた瞬間、スリルと危機一髪が同義語であることを改めて噛みしめたのである。
(文=美田三太)
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