“El”は英語で言うところの「The」で、“Amor”は「Love」である。つまり「愛」という意味だが、実はこれはスラング的な言葉としても使われることがあり、その場合は「セックス」となる。愛とセックスを直接結びつけるなんて、粋な言い回しだなぁと思ったものである。
彼女に「シー(はい)」と答えると、腕をつかまれてグングンと道端の建物の裏手へと連れていかれた。海外、それも、この場所の治安を考えると、かなり危険なシチュエーションだ。一瞬、「殺されないまでも誘拐か?」という思いがよぎった。事実、振り返るとアロンが「ヤバイよ!」という目をしていたが、彼自身も他の客引きに囲まれて身動きができない状況だ。
だからといって、ここで抵抗したとする。たとえ今は目の前の女性一人だとしても、周囲に仲間がいて目を光らせている可能性も高い。だから、大げさな抵抗は逆効果になる…と、そんなことを考えているうちに、ある建物に連れ込まれた。たぶん、彼女が身を置く売春宿だろう。中に若い女性が5、6人いた。
しかし、その若い女性たちは彼女の姿を見ると、急に姿勢を正し、ピンと張りつめた空気を漂わせた。おそらく、彼女がこの女性たちのリーダーなのだと思われる。事実、彼女が女性たちを見る目は、どっか威圧的だが、こちらに振り返ると満面の笑みを浮かべる。その顔は派手なメイクをしているものの、カリブ系の素朴な素顔が垣間見えた。
彼女は指を一本立てながら「ワンハンドレット」と100ドルを要求してきた。パナマにはバルボアという法廷通貨があるが、街のレストランなどでも基本的にアメリカドルで取引が行われているからだ。
料金を支払うと2階の部屋へ連れていかれ、改めて「ケイト」と名乗った彼女がいきなりキスをしてきた。重ねた唇の感触よりも違和感が気になった。それは、海外の売春宿では基本的に、セックスだけをする場所という認識があるので、部屋に入り即合体というパターンが多く、キスから始まったことに違和感を覚えたのだ。それも、舌を絡めたりしてくる、かなりディープなもので、これがパナマスタイルなのか?
違和感があったのはキスだけではなかった。その部屋にシャワーはなかったものの、ケイトはキスの後に首筋に唇を這わせてきた。それだけに留まらず、乳首や脇腹などを舐めたり吸ったりする。日本の風俗でいうところの全身リップだ。しかも、舐めながらケイトの手はずっと股間をいじってくる。
めちゃくちゃ気持ちいい。それでも、やはり違和感は拭えない。やたらと密着してくるし、詳しくは理解できないが、やたらと話しかけてくるのだ。ただ、それがビジネスライクなものではなく、ナチュラルな感じが伝わってくるので心地良い。なんだか、本物の恋人気分である。