試合後(?)、私は思い出したように慌てて彼女にインタビューしに行った。聞けば、小さいころからボディビル好きの父親に技を掛けられていたという。このご時勢では虐待だと言われかねないが、それによって徐々に格闘の世界に目覚めたのだそう。昔から、女子プロに憧れ、自衛隊に入ろうと思ったこともあるらしい。ちなみに好きな格闘家は、格闘技団体・PRIDEの王者でもあったミルコ・クロコップとのこと。
そんな彼女に、「変わったお客さんは?」と質問すると、「リングで血を出すまで殴り続けて欲しいというお客さんには、血が出るまで殴り続けましたね! 最近、人って滅多に殴れないじゃないですか~。だからすごく楽しくて気持ちよかったです!」と目を輝かせながら答えた。
うーん、本気っぽいなこの人…と思いながらレコーダーを回していたのをよく覚えている。当初私が想定していた女王様インタビューとはまったく違うものになったが、今振り返るとこんなレアな世界を垣間見ることができたのも、ひとえに「ミストレス」の編集者だったからだと思う。
それにしても、格闘SMプレイの魅力とは一体なんなのだろう?
知り合いのM男さんに興奮するかどうかを尋ねると、格闘SMと聞いただけで嫌な顔をする人が多い。彼らには“可愛がられたい”とか“寵愛”という欲求が先にあり、同じSMといっても格闘SMが目指すベクトルとは異なるようだ。
おそらくは、圧倒的に強大な力を持つ女性に組みふされたい、首を絞められて窒息したい、とにかくボコボコにされたいという、もっと粗野で根源的な欲求が格闘SMにはあるのだろう。現にこの号の「MISTRESS」の表紙を見ると、“マゾ男を潰すアマゾネスの絶命顔面騎乗”のタイトルが躍っている。そして、そこには巨尻の重みを背骨で受け止めながら、死ぬほど勃起させて先走り汁まで漏らしてしまうM男さんたちが写っている――。私は、そんなひっくり返ったような世界に暮らすM男さんたちがちょっと羨ましくもあるのだった。
(文=菅野久美子)
菅野久美子(かんの・くみこ)
アダルト系出版社司書房を経てAV情報誌やホスト雑誌、女性週刊誌で活動。
現在フリーのライター。
著書に『アダルト業界のすごいひと』(彩図社刊)がある。
8月10日に2冊目の単著となる『エッチな現場を覗いてきました!』(彩図社刊)を発売。