【百園雷太（ライター）】
いきなりだが、『孫子の兵法』を知っているだろうか。中国春秋時代に活躍した思想家の孫武によって記された戦術指南書であり、「彼を知り己を知れば、百戦して危うからず」という言葉を耳にしたことがある人も多いはずだ。
この兵法はいつの時代も変わることのない人間の心理を基礎に考えられているのだが、それはつまり、男性が女性を口説くときにも大いに参考となるのではないだろうか。
そんな画期的すぎるアイデアから誕生した作品こそ、ビックモーカルの『もう風俗に行くな。たった二回で風俗嬢をセフレにする方法』である。
まず注目してほしいのがパッケージの表面。AVをよく見る人であれば思わず目を疑うはずで、出演している女優さんたちの艶やかな裸身が全く掲載されていない。あるのはタイトルやキャッチコピーなどの文字だけであり、「ビッグモーカルさん、大丈夫なの？」と心配になってしまう。しかし、その異様さのために作品への興味は深まるばかりで、恐らくこれも兵法のひとつに違いない。
さて、同作品がターゲットとしているのはデリヘル嬢・後輩OL・マンネリ妻の3タイプの女性。世の男性が落としたい女性の代表格であり、それぞれについて兵法を基にした攻略法が提示される。
例えば、デリヘル嬢のコーナーでは、「多算なれば勝ち。少算なれば勝たず」（相手のことをよく知り、事前に勝つための工夫をたくさん行うことが必勝につながるという意）という兵法が登場。そして、「1万円～1万5000円くらいのお店を選ぶ」という、兵法を利用するためのいろいろなアドバイスが提示される。ちなみに、どうしてこの価格帯なのかといえば、客層のクオリティが高くないほか、富裕層相手でもないので、自分をデリヘル嬢に良く見せることができるからだそうだ。
このように、それぞれの女性を落とすための兵法と具体的な実践例が次々と提示されていき、思わず「へぇ」と納得してしまうこともしばしば。というか、AVを見て「ほほう」とうなずいたのは初めての経験であり、テーマとしている兵法を単なるエロの添え物として考えていないことがよく分かる。
また、女性を口説くテクニックの内容だけではなく、落とした女性とのエッチシーンも見応えは十分だ。あらゆるテクニックを駆使しているうちに女性の心が開かれていき、ついに陥落した瞬間は興奮必至。女優さんが魅力的なのはもちろんだが、いろいろな兵法を学んでいるうちに、なぜか自分が落としたような気分になってしまうから不思議だ。
AVとしての魅力だけではなく、実生活も豊かになってしまうという、いろいろな意味で実用性にあふれた同作品。これを見た人は、恋愛という戦場では負け知らずになるはず？
■百園雷太（ひゃくえん・らいた）
男性誌を手がける編集プロダクションに勤務後、フリーライターとして独立。アダルトや芸能系のほか、サブカル・ビジネス・モノ系など、幅広い記事を制作している。
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