イメクラは一時、風俗界を席巻するほど隆盛を極めたが、その終焉は驚くほどあっけなかった。
時の都知事であった石原慎太郎(82)が主導した浄化作戦によって、これら店舗は一部の許可店を残して壊滅を余儀なくされたのだ。2004年から2005年頃のことだから、ちょうど10年ほど前のことである。
今では読者もご存知のとおり、風俗の中心はデリヘルに移り、サービスの主軸は再び性行為そのものに置かれるようになった。イメージプレイをメニューに謳う店もあるにはあるが、かつてのような趣向を凝らしたサービスは、もうほとんどお目にかからない。
この夜、文化通りから道玄坂小路の坂道を上り、『ファイブドアーズ』の跡地を歩いたが、この狭い路地も何度となくスクラップ&ビルドが繰り返されたらしく、記憶力の悪い私は、ついにその正確な場所を探しだすことができなかった。
今さらここで、かつて業界をどん底に突き落とした浄化作戦の良し悪しを述べるつもりはない。風俗産業が非合法組織の資金源になってはならないし、国民が安心して歩ける街を作るためには、何らかの形で官によるコントロールが必要だ。だが、イメクラを文化と呼ぶのは馬鹿げているとしても、もし2000年代初頭の勢いのまま、これらのサービスが進化していたら、もっと洗練された面白い遊びが生まれていたかも、とは思う。
ところで余談になるが、世にも珍しいAV脚本家を営む私は、極悪非道なストーリーを得意とする一方で、「飲む」「打つ」「買う」をしない。
なのに、なぜイメクラに詳しいかというと、実はこの『ファイブドアーズ』のNo.1イメクラ嬢だったHと、ごく短い間だがプラトニックな恋愛関係にあったからである。
客と風俗嬢が付き合うのは奇跡のような確率で、言ってみれば現代の御伽話だ。ましてや身体の関係を持たないとなれば、なおさらだろう。
今思うに、もしかしたら、あれも誰かがが書いたストーリープレイで、私は気づかないままに、何かの役を演じさせられていたのかもしれない。
そんな古い思い出に浸りながら、いっこうに耐えない人混みをかき分け、私は夏の盛りを迎えた夜の渋谷を後にした。
(文=色川ザクロ)
■色川ザクロ
世にも珍しいAV脚本家。極悪非道な物語を得意とする傍らで、元ナースの嫁に虐げられた日々を送る。家庭内ステータスは愛犬ちい坊に続く堂々のNo.3。