性犯罪のなかでも、とくに卑劣なものがレイプ犯であることはいうまでもない。明治期の新聞にもレイプならびにその未遂事件の記事は数多い。
たとえば、明治43年9月15日の『東京朝日新聞』に掲載されている事例はかなり悪質である。
9月4日の夜のこと、東京・麹町紀尾井町で女性の悲鳴がするのを巡回中の警官が聞きつけ、現場に急行。すると、まさに男が嫌がる女性を抱き寄せている最中であったため、ただちに身柄を確保して両名を警察署へと同行させた。
取り調べに、女性は用事で夜道を歩いているところを、いきなり待ち伏せしていた男に襲われたと証言。男については子細は知らないが、「牛込の八百屋」であると言った。どうやら顔見知り程度で、親しい間からではないとのこと。
そこでこの男を問い詰めたが、「確かに自分は青物行商をしている高橋仙蔵というものだが、あの女に惚れていたので、思いを晴らそうとしたまでだ」などとうそぶくものの、暴行についてはのらりくらりとはぐらかすばかりだった。
この時、取り調べに当たったのは、不良少年や不良学生の検挙では経験と実績がある警視庁の福田警部だった。
その福田警部、経験から「こいつは怪しい」と感じたため、部下の刑事3人に命じて高橋について調査させた。すると、福田警部のにらんだ通り、仙蔵のただならぬ犯行歴が明らかとなった。