色街探訪に不可欠の資料『全国遊廓案内』復刻

※画像:今回復刻された『全国遊廓案内』

 
 戦前の歓楽街を知るうえで、非常に貴重な資料が復刻され話題を呼んでいる。かつて国内に存在した歓楽街について紹介した資料、『全国遊廓案内』である。

 発行は昭和5年。全485ページ、新書に近いサイズのコンパクトな本であるが、当時の日本で稼動していたほぼすべての遊郭に関して、規模や特色など概要を紹介した文献である。 
 

 歓楽街についてのガイドブック的なものはいくつも刊行されているが、そのほとんどは一部の地域のみに限定したものや、紀行文や評論的な内容の著述が大半を占める。

 それに対して、この『全国遊廓案内』は全国の遊廓をカバーしており、客観的な情報を簡潔にまとめている。全国の歓楽街についての情報を網羅した資料はほかには見当たらず、当時の状況を伝える貴重な資料として高く評価されている。

 今回、同書を復刻したのはカストリ出版。代表は遊廓の調査研究で実績のある渡辺豪氏だ。渡辺氏はすでに、やはり全国の歓楽街を紹介した『全国女性街ガイド』の復刻を手がけており、今回は第2弾となる。
『かつての歓楽街を網羅した稀少本が蘇る! 完全復刻版「全国女性街ガイド」』
 また、今回の復刻では内容だけでなく原著の表紙も再現している。美しいピンク色の装丁に、妓楼の窓を思わせるイラストが描かれている。

 ところで、同書はいろいろと謎めいたところが少なくない。

 たとえば、発行元ならびに編者は日本遊覧社、発行者として佐藤丘巣と奥付に記されている。だが、日本遊覧社なる出版社あるいは法人については詳しい情報がまったく残されておらず、同書のほかに刊行物を出版した形跡も見当たらない。

 また、佐藤丘巣という人物についても、その経歴や活動などほとんどわかっていない。一部の雑誌に記事を執筆したらしいという程度で、同氏名義の著作や刊行物もやはり確認されていない。

 少ない情報からの憶測であるが、日本遊覧社とは佐藤丘巣氏の屋号のようなものであり、同書は佐藤丘巣氏による著作と考えられる。これほどの内容の著述を、はたしてたった一人で執筆構成したのか、佐藤丘巣とは著名な書き手の別名義なのか。同書の内容の充実に対して、不明点がはなはだ多い。何とも不思議な資料である。

 さらに、同書は長らく発禁処分を受けたと考えられていた。それに対して、復刻を手がけた渡辺氏は疑問に感じ、丹念な調査によって「発禁処分は受けていない」と結論付けた。その経緯については、同書に詳しく掲載されている。この17ページにわたる調査結果だけでも、非常に価値あるものと判断できよう。

 代表の渡辺氏は、「これからも貴重な資料の復刻を続けていきたいと思っています」と、さらなる意欲を見せている。今後の同氏の活躍におおいに期待したいところである。
(文=橋本玉泉)

■カストリ出版のホームページ<kastoripub.stores.jp/

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